試乗スケッチ

コンマ1秒を競う場面で活性化 GRヤリスは公道に舞い降りたラリーマシン

木下隆之
木下隆之

ヤリスの面影を消し去ったGRヤリス

 トヨタの“ヤリス攻勢”が止まらない。最量販モデルである「ヤリス」を発売し、予定通り、日本の国民車たる地位を確実に手中に収めつつある。だがそう思ったのも束の間、矢継ぎ早に「ヤリスクロス」をデビューさせた。ヤリスのプラットフォームとパワーユニットを流用し、車高の高いクロスオーバーカーとして市場の反応を見た。

 その興奮もさめやらぬうちに、「GRヤリス」のデビューである。瞬く間に、ヤリスラインナップは揃った。もはや、ヤリスの牙城を崩すのは困難に思えるほど、隙のないモデル構成を完成させて見せたのだ。

 ヤリスは正統派の最終路線を突き進む。使い勝手と経済性で、日本国民の生活に静かに寄り添う。ヤリスクロスは、生活に一点の彩りを添えて見せた。荒地にも踏み込めるほどのタフな走破性能を備えている。オフ日に家族揃ってキャンプに行くような、行動範囲の広さが魅力である。

 そこに今回、GRヤリスが加わった。といっても、GRヤリスをそれまでのヤリスと同格に論じるのには無理がある。共通しているのはヘッドライトとテールランプと、そしてプラットフォームだけというほど、面影を消し去っているからだ。それも道理で、3ドアハッチバックのコンパクトボディは、大きく張り出したブリスターフェンダーで武装する。搭載するエンジンは直列3気筒1.6リッターターボで、272psを炸裂させる。組み合わされるトランスミッションは6速マニュアルであり、前後駆動トルク可変の4WDシステムを奢っているのだ。もうこうなったら、公道を走ることの許されたラリーマシンといった趣すらある。

 実際にワインディングを攻め込むと、GRヤリスの本性が露わになる。ターボトルクは激烈で、全域パワーゾーン。いつもよりシートを前寄りにスライドさせ、ハンドルにしがみつくようなドライビングポジションをお勧めする。できれば、レーシンググローブをはめた方がいいかもしれない。それほど、走りはアグレッシブなのだ。

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