8月に発表された総務省の人口動態調査では、令和2年1月1日時点の日本人は1億2427万人と平成31年と比べて50万人以上減少となりました。生産年齢人口と呼ばれる15歳~64歳の割合は、日本人全体の6割を切る状況です。働いて税金を納め、社会保険料を納付する層の割合が減っている中で、少子化に伴い未来の消費者も減っている状況です。私たちの生活の安定を脅かす存在の1つに年金はもらえるのか、という疑念があります。これから先、日本の社会保障のうち特に年金はどのようになっていくのでしょうか。
社会保障給付は120兆円から200兆円に
社会保障給付は、医療・年金・介護・福祉(生活保護等)を指し、2018年度では年金57兆円、医療39兆円、福祉その他25兆円、総額121兆円となっています。社会保障給付は政府の推計によると2025年度に140兆円を超え、2040年度に190兆円に達します。200兆円を超えるのは時間の問題です。
単純に考えて、人口が減り続ければ、社会保険料の総額も減少するでしょう。人口減で支払い対象者が減るように思えますが、新しく年金を受け取る人たちが年間150万人増えていますから、年金の支払い、医療費、介護費用、生活保護費などは益々増えていきます。
社会保障給付を抑える取り組み
一方、政府も手をこまねいているわけではありません。毎年のように社会保障関係の法改正や制度改正を実施しています。薬価改定、高額療養費の見直し、後期高齢者医療の保険料軽減の見直し、協会けんぽの国庫補助見直し、生活の適正保護化などに取り組んでいますが、空いたバケツのように出ていく社会保障給付をとどめるには至りません。年金の給付は抑制傾向ですが、医療費と介護費用の上昇は止まらない状態です。
もはや細かい修正ではなく抜本的に変革しなければなりませんが、そのような話は聞こえてきません。おそらく現役世代の医療費は3割から4割、5割負担へ増やし、高齢者医療も所得と資産規模に応じて増やすことが妥当でしょう。高額療養費は高所得、高額資産保有世帯の廃止を含めて上限のさらなる引き上げなどができることはありそうですが、改善はまだまだ先のことでしょう。
100年安心の年金システムは支給減が前提
2019年8月に政府の社会保障審議会年金部会において、2019(令和元)年財政検証結果が発表されました。この報告では(1)労働者数、(2)生産性、(3)物価上昇、(4)賃金上昇、(5)年金の運用、(6)経済成長、がうまく推移した場合と機能しなかった場合など6つのパターンに分けて年金額がどのような水準になるかを示しています。
年金額は物価水準などを勘案して毎年変動します。支給額の目安となっているのが所得代替率という指標です。所得代替率は現役時代の手取りに対する年金額の割合のことで、2019年時点で61.7%となります。この数値の意味するところは現役時代と同等の生活を営む場合は、年金が6割負担、4割の自己負担です。
この所得代替率は前述(1)~(6)の要素が順調であっても、なくても50%程度に落ち着く見通しです。つまり、現役時代の手取りの半分を年金で受け取り、残りの半分は働くなり貯蓄の取り崩しなどで対応することになるのです。
驚くべきことに、今ある年金の積立金は運用しつつ取り崩されていますが、2052年には取り崩す資産がなくなり、保険料と国の負担のみで賄われることになります。その場合の所得代替率は36~38%と小さく記載があります。
なんと、30年後に年金は今の水準から4割カットになるというのです。