鉄道業界インサイド

東京圏の混雑率は解消可能なのか 11路線が乗車率180%超という実情

枝久保達也
枝久保達也

 ピーク1時間の利用者数の1割を…

 実際、混雑緩和のために莫大な投資をするのは非常に効率が悪い。例えば、終日3分間隔(1時間20本)で運行する路線Aと、日中は3分間隔、ラッシュ時間帯は2分間隔(1時間30本)で運行する路線Bを比べてみよう。利用者から見た利便性では2分間隔と3分間隔に大きな違いはない。しかし、路線Bはラッシュ時に1.5倍の本数を運行するために、1.5倍の車両と乗務員が必要になる。ピーク1時間を除く残り23時間には必要のない設備や人員のコストを全利用者で負担しているのである(実際には定期券の割引率が高いため、ラッシュ時間帯以外の利用者がより多く負担していることになる)。

 東西線のケースでは、運行本数を3本(10%)増やすために、15年近い年月と1200億円が必要になる。ところが、これと同等の混雑緩和は、ピーク1時間の利用者数の1割を前後の時間帯に移すだけで可能なのだ。もちろん、これは鉄道会社の一存で左右できる問題ではなく、行政や企業を含めた、社会全体で取り組まなければならない課題である。

 JR北海道の経営危機に見るように、地方鉄道の持続可能性は今や喫緊の課題となっているが、いずれは都市部においても人口減少による利用者減が鉄道の経営問題、存続問題に直結する日が訪れる。それは長期的に見れば東京圏も例外ではない。人々の生活が健康で豊かになるように、そして都市機能が持続可能であるために、私たちの社会は今、大きな転換期を迎えている。

枝久保達也(えだくぼ・たつや)
枝久保達也(えだくぼ・たつや) 鉄道ライター
都市交通史研究家
1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。

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