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「苦しかった」必死に舞台上がり続けたオール巨人さん C型肝炎闘病記
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自覚症状がないまま静かに進行していく病気、C型肝炎。漫才師のオール巨人さん(62)が1年半の治療を経て完治し、闘病記「さいなら!C型肝炎」(ヨシモトブックス)を出版した。発熱、せき、めまい、耳鳴り、味覚障害、不眠…。投薬による副作用に苦しみながらも舞台に上がり続けたのは、相方や観客、治療中のすべての人にマイナスのメッセージを与えたくないという強い思いだったという。
「本当にもう、次から次へと副作用が続きました。1年半の治療は長かった」
巨人さんがC型肝炎の治療を始めたのは、平成22年2月。感染者(キャリア)であるということは、その18年前に盲腸の手術をしたときから分かっていた。ただ、自覚症状がなかったこともあり、治療を先延ばしにしていたという。
先に治療を始めたのは、同じく感染者だった妻だった。妻が薬の副作用に苦しむ姿を見て、体力に自信のあった巨人さんは逆に「そんなにつらいなら、いっぺん体験してみようか」と挑戦心がわく。主治医から治療を勧められていたこともあり、治療を開始した。
ただ、投薬による副作用は想像以上だったという。テレビの番組収録があるというのに朝から吐き気が止まらなかったことも。リハーサルが終わると楽屋で吐く。本番のコントでは若い男の子を肩車するシーンを何とか切り抜け、収録が終わるとまた楽屋で吐いた。
「それでも仕事は1日も絶対に休まなかった。相方だけが出演すれば『巨人はどうしたんや』と注目されて、心配をかけるじゃないですか」
薬の副作用の強さから、途中で治療をやめたり、仕事をやめたりする人もいるという。だからこそ「巨人でも耐えられないほどつらい治療」という印象を闘病中の人たちに与えることを何よりも恐れていたのだ。
C型肝炎は、ウイルス感染によって起こる肝臓の病気。大阪大学大学院医学系研究科の竹原徹郎教授(消化器内科学)によると、全国の感染者は140~150万人。感染すると20~30年かけて肝硬変、肝がんと進行する可能性があり、肝がんで毎年死亡する3万数千人のうち、約75%がC型肝炎による。
感染は血液を介して起こり、一緒に食事をしたり、入浴したりしても他人の血液に触れなければ感染は起こらない。ただ、入れ墨や不衛生な器具でのピアス、注射器の使い回し、カミソリや歯ブラシの共用などで感染の危険があるという。
感染者の多くは40代以上だが20代の患者もおり、感染者の半数以上は原因が不明。巨人さんと妻もどこで感染したのか、原因は分からないままだ。
一方、治療は年々進歩している。巨人さんの治療には1年半かかったが、現在の治療期間は約半年。医療費助成もあり、自己負担額は月に原則1万円(高所得者は2万円)だ。今年中に注射を使わず飲み薬だけの治療が可能になり、来年には治療期間が3カ月ですむ治療法が始まる可能性がある。
竹原教授は「長期間にわたる薬の副作用のせいで治療できなかった人でも、ウイルスを排除することが可能になる。ただ、年齢の高い人や病変が進行している人は新薬を待つ余裕はなく、一年でも早く治療を開始した方がよい」と話す。
治療を通じて巨人さんの体重は8キロ減り、治療中は顔色が悪いのを隠そうと、ほお紅を塗っていたほどだった。しかし一番そばで変化を感じていたはずの相方、オール阪神さんはそれを一度も指摘しなかったという。
「漫才では阪神くんが腕をつかんで止める場面があり、どんどんぼくの腕が細くなっていくと感じていたらしい。友達には『つらそうだ』『やせてきた』と話していたみたいです。でもぼくには絶対に言わなかった。過剰に気遣いしない気遣いは、ありがたかった」
コンビ結成から約40年。当初20年ほどはけんかばかりで、コンビ解散の危機も何度もあったという。しかし、阪神さんの離婚や巨人さんの闘病など、一方のトラブルを相方が支えるたびに絆を強めてきた。
巨人さんは漫才師を「2人リレー」に例える。しんどくなったら相手にバトンを渡せば走ってくれる、相手がしんどくなったら自分がバトンをもらう-。
治療を終えて体調はすっかり良くなり、これからも2人で舞台に立ち続ける。「治療をして本当に良かった。だからみなさんに、症状がなくても検査を受けて早期発見してほしいし、一刻も早く治療を初めてほしいと訴えたい。ウイルスが1つなくなるだけで、見た目も若返りますよ」