ファブレスの流れに乗り遅れた日系メーカー
2次にわたる半導体協定の圧力から日本のメーカーが解放されて1993~1995年頃になると、インテルのマイクロプロセッサー(超小型演算処理装置)「Pentium」やマイクロソフトのPC用OS「Windows 95」が売り出されるようになり、一気にインターネットの時代を迎えることになった。
そして、アメリカの半導体企業では、Fabless(ファブレス:研究開発や設計に専念し自社の製造工場を所有しない経営方式)化が進み、この新たな流れに日本の半導体メーカーは乗ることができなかった。
Fabless化は世界の半導体産業に大きな構造変化をもたらした。たとえばアメリカのインテルなどの大手半導体企業が研究開発・設計を担い、生産を台湾のTSMCに委託するという分業方式が加速し、その結果、受託側が製造面で優位性を発揮するようになった。
TSMCは現在、回路線幅が狭いほど性能が高まる半導体の製造技術において、業界最先端品の回路線幅5ナノ(1ナノは10億分の1)メートルの生産ラインを確立している。これに対して日本の半導体メーカーの技術は40ナノ止まりと大きく後れを取っている状態だ。
富士通とパナソニックの半導体事業を統合したソシオネクストは、2021年2月に日本勢初の5ナノの半導体を製品化すると発表したが、これもTSMCに委託したようだ。
半導体の部材・部品では世界的シェアを持つ日系企業
ただ、日本の半導体メーカーの技術は40ナノメートル止まりと大きく後れを取っているとはいえ、半導体関連の全てが後れているということではない。
信越化学工業のシリコンウエハーや村田製作所のMLCC(積層セラミックコンデンサ)に代表されるように、日本の半導体関連の部材・部品は世界的なシェアを維持している。その最大の理由は、分解しようと解体しようと簡単に真似できない技術を保持しているからで、こうした技術こそ日本産業界の宝と言ってよいだろう。
これからの生活に欠かせない半導体の素材「シリコンウエハー」
近年、半導体デバイスの高速化、高集積化、小型化などの付加価値を高める技術の重要性が高まっており、なかでも信越化学工業は、特に半導体の「基板」となる素材のシリコンウエハーのメーカーとして国内外に知られ、益々その活躍の場が広がっている。
同社のシリコンウエハーがどのようなものかというと、昔、火打ち石に使われていた珪石にはケイ素が多く含まれているが、まずこれを取り出して金属ケイ素を作り、次に金属ケイ素からほぼ100%に近い高純度のケイ素の塊である多結晶シリコンが作られるという。
さらにこの多結晶シリコンを原料に、結晶成長技術を駆使して一定の原子配列を持った直径約30センチ、長さ約1メートルというシリコンの結晶(単結晶)を作り、この単結晶の塊を薄くスライスしてシリコンウエハーが作られているという。
シリコンウエハーはスマートフォン、パソコン、デジタル家電、自動車など、我々の身の回りで数多く使われており、今後もモバイル機器、自動運転車、AI、IoT、5G等々の進化に伴って欠かせない材料になるのは間違いない。