テクノロジー

「コメント欄閉鎖も初めて導入」ヤフーは誹謗中傷コメントを排除できるのか

 ■「24時間体制のパトロール」対策を強めるヤフー

 ヤフーはまた、前回の声明文公表の5日後に外部有識者会議「プラットフォームサービスの運営の在り方検討会」の設置を発表。12月にはその提言を受けて、ヤフーニュースなどへの誹謗中傷投稿に対して、削除基準の明確化やAIを使った削除の精度向上などの対策強化を打ち出している。

 今年2月にヤフーが総務省の有識者会議に提出したヒアリングシートによると、ヤフーニュースのコメント欄への1カ月の書き込み数は約1300万件。利用規約違反などの外部からの指摘が16万件、このうち誹謗中傷などの「不快」を理由とした削除が1万8000件。また規約違反の指摘以前に、AIによって削除された「不快」投稿は5万8000件としている。このほかに、24時間体制で専門チームによる投稿のパトロールも実施しているという。

 ヤフーは、AIの判定を基に、不適切な投稿を繰り返すユーザーに対して「乱暴な言葉づかいや他の人が傷つく内容がないか考えてみましょう」なとどする注意メッセージを表示したところ、表示対象となるアカウントは昨年8月から4カ月で13.5%減少する効果があったという。

 一方で、投稿内容が刑事事件に発展する事例もある。5月には、コメント欄に大阪府高槻市議を中傷する虚偽の投稿をしたとして、同市内の30代の男性に対し、茨木簡裁が名誉毀損(きそん)罪で罰金10万円の略式命令を出していた、と報道されている。

 ■コメント欄がプロパガンダに利用されている実態も

 コメント欄の問題は、誹謗中傷などの違法有害情報以外にもある。外国勢力による情報工作の標的にされている、との指摘だ。

 英カーディフ大学の研究チームが9月初めに公表した報告書によると、欧米や日本を含む16カ国(地域)、32の大手メディアを調査したところ、これらのコメント欄を標的に親ロシアの「読者コメント」が書き込まれ、それがロシアの政府系メディアの「まとめ記事」を通じて、プロパガンダとして拡散されている実態が明らかになったという。日本でその標的となっていたのが、ヤフーニュースのコメント欄だった。

 ■「地獄」「廃止」ユーザーに向き合った対応が必要

 ヤフーニュースのコメント欄を巡っては、誹謗中傷が後を絶たない、との批判が根強い。フェイスブックへの批判と同様に、「利益優先」との声も上がる。これに対してヤフー広報室は、コメント欄はニュース理解のための「解説や捕捉」などを提供するもので、「PV(ページビュー)を増やすことを目的として提供しているわけではない」としている。

 ヤフーニュースのコメント欄は、ネットユーザーからどのように見られているのか。ヤフーニュースへのコメント投稿数が急増したという10月1日から10日まで、「ヤフコメ」というキーワードに対するツイッター上の反応を、ヤフーのリアルタイム検索で調べてみた。

 この間のツイッターでの関連投稿数は1万507件。そして、「感情の割合」は91%がネガティブだった。ネガティブの具体的な中身とは何か。ユーザーが「ヤフコメ」とともに頻繁に検索するキーワードとして表示された候補は、「廃止」「反ワクチン」「地獄」「誹謗中傷」などだ。

 有害情報を完全に排除することは不可能だし、「表現の自由」への萎縮効果も大きい。ただ、これらのユーザーの反応からは、コメント欄の誹謗中傷対策などが、十分とは評価されていない現状が浮かび上がる。ユーザーが安心して利用できるようにするためには、その声に向き合った対応が求められる。今回の新たな誹謗中傷対策が十分な効果を上げられるかどうかを、ユーザーは見ている。

 (※ヤフーリアルタイム検索のデータ確認は10月20日現在)

 

 平 和博(たいら・かずひろ)

 桜美林大学リベラルアーツ学群 教授、ジャーナリスト

 早稲田大学卒業後、1986年、朝日新聞社入社。社会部、シリコンバレー(サンノゼ)駐在、科学グループデスク、編集委員、IT専門記者(デジタルウオッチャー)などを担当。2019年4月から桜美林大学リベラルアーツ学群 教授(メディア・ジャーナリズム)。主な著書に『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(いずれも朝日新書)などがある。

 

 (桜美林大学リベラルアーツ学群 教授、ジャーナリスト 平 和博)

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