■「フェイスブックは事実を歪めている」
違法有害な投稿の扱いをめぐるプラットフォームへの批判は、世界的に広がっている。
「経営陣は、フェイスブックとインスタグラムをより安全にする方法を知りながら、そのための修正を行おうとしない。人々のことより、莫大な利益を優先したからです」
関連サービスを含めた月間ユーザー数は35億人に上る世界最大のソーシャルメディア、フェイスブック。そのコンテンツ管理の問題点について、内部文書を基に告発をした同社の元プロダクトマネージャー、フランシス・ホーゲン氏は10月5日、米上院の公聴会でそう証言した。
ホーゲン氏は公聴会に先立ち、米ウォールストリート・ジャーナルに内部文書を提供。同紙はこれに基づいて、インスタグラムの利用が10代の女性ユーザーのメンタルヘルスに与える悪影響や、フェイスブックページでの反ワクチンのコメントの氾濫などを、社内調査で把握しながら十分な対策を取っていなかったと指摘した。
同様の批判は、公聴会から3日後に発表されたノーベル平和賞の受賞者の一人でフィリピンのニュースサイト「ラップラー」の最高経営責任者(CEO)兼社長、マリア・レッサ氏も行っている。
「フェイスブックは事実を歪め、ジャーナリズムを歪めている」「(フェイスブックのアルゴリズムは)事実よりも、怒りと憎悪が入り交じったうその拡散を優先している」
フィリピンのドゥテルテ政権への批判を続ける中で、ソーシャルメディアを通じた攻撃の標的となってきたレッサ氏の指摘も、また重い意味を持つ。
フェイスブックへの批判が注目を集めるのは、新型コロナウイルスの感染拡大についてのデマの氾濫や、2020年米大統領選を巡る陰謀論が引き金となった連邦議会議事堂乱入事件など、違法有害情報が現実社会に多大な被害を及ぼす事例が相次いでいるためだ。
■欧米はプラットフォームへの規制を強化
違法有害情報にどのように対処するべきか。議論の照準は、その主な拡散の舞台であるプラットフォームに向けられ、法規制強化の動きが進んでいる。
米国では、投稿コンテンツに対するプラットフォームの幅広い免責を規定する通信品位法230条を改正し、免責を限定的にするべきだ、との議論が進む。フェイスブックの内部告発者であるホーゲン氏は、同条改正に加えて、アルゴリズムの透明性や内部データ開示などを議会に提言している。
欧州では、すでにドイツが2017年から、ソーシャルメディア上のヘイトスピーチやフェイクニュース対策として、プラットフォームに違法コンテンツへの対応義務を課し、制裁金の規定もある「ネットワーク執行法」を施行している。さらにEUは昨年12月、フェイスブックやグーグルなど米国の巨大プラットフォームに照準を絞り、特に違法情報への対応義務などを盛り込んだ「デジタルサービス法案」を公表し、規制の度合いを強めている。
ヘイトスピーチ、フェイクニュースなどの違法有害情報対策と、プラットフォームへの規制強化は、世界的な潮流となっている。
■木村花さんの事件以降もやまぬ誹謗中傷
日本でも、欧米などの議論と平行して、違法有害情報への対策は検討されてきた。
総務省の有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」は2020年2月の報告書で、フェイクニュースなどの偽情報対策について、表現の自由に配慮し、「プラットフォーム事業者を始めとする民間部門における関係者による自主的な取組を基本とした対策を進めていくことが適当である」との整理をしている。
そして同年5月23日、ネット上の誹謗中傷を巡って注目を集める事件が起きる。プロレスラーの木村花さんの死亡事件だ。出演していたリアリティー番組「テラスハウス」内でのエピソードをきっかけに、木村さんへの誹謗中傷が相次いだ末の事件だったとされる。
この事件をきっかけに、プラットフォームへの誹謗中傷投稿は、改めて大きな社会問題となる。今年4月には、匿名投稿者の身元情報開示手続きを迅速化するための「改正プロバイダ責任制限法」が成立している。また、刑法の侮辱罪の厳罰化も検討中だ。
ヤフーニュースは木村さんの事件の4日後、「ユーザーのみなさまへのお願い --コメントの投稿にあたって--」と題した声明文を発表している。今月2日の声明文と、まったく同じタイトルで、ほぼ同趣旨の内容だ。約1年半の時間を経て、ユーザーに対し、再び同じことを呼びかけなければならない状況となったわけだ。