利用者にとっての快適
そんなバスインフラの普及にとって実は最大の障害が、我々生活者のバスへの否定的な評価なのです。確かに先述した乗り心地の悪さや道路混雑での遅延などで、バスはコリゴリという気分も致し方ないところもあるのですが、一方で、バスならではの良いところも沢山あるのではないでしょうか。
バスは地下や高架を走りません。特に最近新設される地下鉄はかなり深い場所にホームがあり、たどり着くまでに一苦労ということも。もちろんエスカレーター、エレベーターも整備されていますが、なかなかしんどい場合があることも事実です。高齢化社会に道路面から高低差なく乗り降りできるバスのメリットが際立つ部分です。そして、停留所の設置容易性により、ドアツードアに近いアクセスのチャンスが増えるのもバスの魅力ではないでしょうか。
晴れた日、SORAの明るい車内で移動していると、きっと誰もがバスも捨てたもんじゃないなと認識を新たにすること間違いありません。
従来型のバスと一線を画すブランディング
さてブランディングの視点で見ると、何よりこのSORAというシンプルにしてわかりやすいネーミングが素晴らしいです。水素を燃料としていることから、「Sky(空)」「Ocean(海)」「River(川)」「Air(空気)」の頭文字を取り、地球の水の循環を表したネーミング『SORA』。燃料電池というパワーソースの環境負荷の少なさを示していることがイメージしやすいですし、SORA=”空”を連想させ、”空”の広い概念が公共交通のための車両としてピッタリきます。
車両のカラーリングは、黒という一般に公共交通にはあまり使わない色を大胆に使うことで、今までのバスとまったく違う乗り物であることを訴求しています。車両デザインもお約束の6面体とは一線を画し、一目でFCバスを印象付けられる特徴的な車両デザイン。パソコンやスマホ関連機器を連想させる先進性の印象もあります。
トヨタとしての、コモディティ化が懸念され国際的競争のし烈化が予想される当たり前の電気自動車の技術ではなく、ならではの燃料電池車両の技術に社運をかける危機感と意欲がまさに伝わってくるブランディングパッケージと言えるかと思います。
誰もが気軽に体験できる未来にいち早く乗ってみよう
2020年オリンピック東京大会での移動手段として、世界にその先進技術をアピールする目的で都営バスに多く導入される予定ですが、すでに都05-2系統(東京駅丸の内南口~東京ビッグサイト)などいくつかの路線で導入されています(ダイヤ等は要確認)。
他にも、この春には京浜急行バスが民間事業者として初めて導入をし、お台場地区での運行が開始されました。
誰もが手頃に体感できる、1億円の未来。東京圏の方はもちろん、東京圏以外の方もオリンピックに先駆け、夏休みの東京旅行の際に試してみる価値は十分にあるように思います。
【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら