いまだに「化学調味料」 味の素の“名誉回復”に社長自ら立ち上がった
食品大手の味の素が、うま味調味料「味の素」のイメージ改善に本腰を入れ始めている。味の素はおなじみの調味料として塩や砂糖と同じように認知され、多くの加工食品にも使われている。一方、化学調味料という呼称が広がったため、「天然」と対比してあまりよくないイメージを持つ人がいるのも事実だ。
ネガティブなイメージはどうして生じたのか。歴史をたどると、米国の論文に行き着く。味の素の西井孝明社長は「風評被害であり、消費者へのミスリードだ」として、イメージ払拭の先頭に立つと宣言した。
4月、都内で開かれた同社のメディア向け懇談会。登壇した西井氏は「風評被害」「ネガティブイメージ」との言葉を繰り返した。さらに、「化学調味料無添加」「化学調味料不使用」といった文字が躍る他社の食品パッケージをスライドで示しながら、「食品メーカーであれば意味がない(安全である)ことは分かっているはずなのに、(表示を)使い続けている」と、穏やかながらも厳しい口調で批判した。
調味料の味の素は97・5%がグルタミン酸ナトリウムで、この成分の英語圏における略称は「MSG」。人が舌から感じる5つの味覚「甘味、酸味、塩味、苦味、うま味」のうち、うま味を刺激するのがMSGで、和食の基本である昆布からとるだしに多く含まれることでも知られる。
MSGの抱えた過去は悲劇的だ。1969年5月、1本の論文が米科学雑誌「サイエンス」に発表された。MSGをマウスの新生児に皮下注射して影響を調査したというものだが、「体重60キログラムの成人に換算すると、30~240グラムのMSGを溶かして一気に注射した」(西井氏)結果、マウスの脳の視床下部に損傷が発生したとの報告だ。
この論文を元に米ニクソン大統領の栄養顧問だったメイヤー博士が、ベビーフードにMSGを使わないよう勧告を発表。この勧告は同年10月、日本でも報道され、MSGを主成分とする味の素は一気に「体に悪い」とのイメージが定着したという。
その後、90年代に入ると世界の科学界でこの論文の検証が行われ、MSGの安全性が証明された。米食品安全局(FDA)も95年、MSGの安全性再確認を公表している。