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格安スマホ、大手が参入する理由は? ドコモ独走阻止に動くKDDIの思惑

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格安スマホ、大手が参入する理由は? ドコモ独走阻止に動くKDDIの思惑

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KDDI子会社が販売しているスマートフォン「UQモバイル」  KDDIが昨年12月、携帯大手として初めて格安スマートフォンの販売を始めた。“格安スマホ元年”となった2014年は、流通大手のイオンやインターネットプロバイダーのニフティ、ネット通販の楽天など幅広い業種から約20社が新規参入し、大手の約3分の1という手ごろな利用料でユーザーを増やしつつある。今年も盛り上がりが予想されるマーケットであることは確かだが、もうけが薄い格安スマホを大手が自ら売り出す狙いはどこにあるのだろうか。格安スマホのユーザー獲得ではなく、事業者の確保にあるようだ。

 KDDIが12月18日に発売した格安スマホ「UQモバイル」の端末は、京セラ製と韓国LG電子製の2機種。月額2920円(高速データ通信量2ギガバイト、税抜き、端末代込み)などのプランを提供する。サービスを手がけるのは、4カ月前に設立した子会社KDDIバリューイネイブラー(KVE)だ。

 KVEが主眼に置くのは、低料金の格安スマホに魅力を感じるユーザーの獲得ではない。菱岡弘社長は「安さだけでなく、KDDIの回線を利用すれば高品質なサービスを提供できる。(その強みを生かした)『パートナー支援事業』に重きを置く考えだ」と説明する。

 自前の回線・基地局網を持たない格安スマホの事業者は、携帯大手のネットワークを借りるMVNO(仮想移動体通信事業者)としてサービスを展開している。KDDIはこうした事業者に狙いを定め、KVEを通じてネットワーク利用を促す-。それが“真の狙い”というわけだ。

 国の意に沿う動き

 一方、業界関係者は、KDDIがパートナー支援事業に乗り出す背景について「通信行政を担う総務省の方針に沿った動きだ」と解説する。

 通信市場の活性化を目指す総務省は、格安スマホの契約シェアを全体の20%と、13年度末時点の3倍強に引き上げようとしている。スマホで契約会社以外の通信サービスを使えないように制限するSIMロックの解除を15年度から義務付けるのも、その一環だ。

 同省はまた、携帯大手に電波の周波数帯を割り当てる際の基準の一つとして、MVNOへのネットワーク貸し出し体制を評価している。現時点で大手3社への評価は同列だが、KDDIは「今後の割り当てで有利な立場を得るためにも積極的にネットワークを利用してもらう体制を整えた」というわけだ。

 しかし現在、MVNOのほとんどはNTTドコモのネットワークを借りてサービスを展開しているのが実態だ。

 KDDIも、光回線サービスを通じて関係が深いケイ・オプティコムにネットワークを貸しているが、大局的にみれば「伸び盛りのマーケットを舞台に、ドコモだけがMVNOからのネットワーク利用料を稼ぐ」という“独り勝ち状態”が続いている。

 こうした状況を、KDDIの田中孝司社長は「不健全な市場環境だ」と息巻くものの、指をくわえているだけでは流れは変わりそうにない。なぜなら、ドコモは総契約者数が最も多いため、KDDIやソフトバンクより回線接続料(ネットワークの利用料)を安く抑えられるからだ。

 ドコモは14年度上期(4~9月)の契約純増数を前年同期の約5倍、119万件と大きく伸ばした。しかし、その中身をみると、MVNOへのネットワーク貸し出し分が約半分を占めている。携帯ニーズの伸びは頭打ちとなってきただけに、ネットワーク貸し出しで利益を稼ぎ出す必要性は増すばかりだ。

 ドコモ独走に風穴

 そこでKDDIは、MVNOに対し単純にネットワークを貸し出すだけでなく、周辺業務のサポートもパッケージ化するパートナー支援事業で、ドコモとの差別化を図ろうとしている。

 具体的には、端末開発やユーザーへの料金請求、コールセンター運営といった業務をKVEが代行する。MVNOにとっては、格安スマホ事業のノウハウがなくても参入しやすくなる。また初期投資が軽くて済み、ユーザーの獲得や本業とのシナジー創出に向けたサービス立案に専念できる点が最大のメリットだ。

 KDDIは「パートナー支援事業に対するニーズは高く、参入を検討する事業者からの引き合いも多い」(広報)とそろばんを弾く。格安スマホをめぐっては、「TSUTAYA」を約1500店舗展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブが15年秋にサービスを開始する計画を明らかにするなど、今後も新規参入が相次ぐことは間違いない。

 ただ、この事業が軌道に乗るまでの間、KVEの収益を支える他のビジネスが必要となる。また顧客となるMVNOに提供するKDDIのネットワーク仕様のスマホをメーカーに開発・製造してもらうには、一定規模の販売数を保証する必要もでてくる。こうした事情から、本命ビジネスの「支援事業」とは別にUQモバイルも売り出すことにしたわけだ。

 大手が自ら格安スマホを手がけるという“奇策”を打ってまでも、ドコモの独り勝ち状態に風穴を開けたいKDDI。周辺業務のサポートという付加価値によって、自社ネットワークを利用するMVNOを増やせるかどうかが注目される。

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