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【原発ゼロの夏】電力の安定供給を考える(下-2)

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【原発ゼロの夏】電力の安定供給を考える(下-2)

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原子力と再生エネルギーは共存していくべきもの=東京電力浮島太陽光発電所  ≪論理的な議論と冷静な判断が重要≫

 ■リスクを抱える急激な再エネシフト、電気料金の大幅な上昇に

 井伊 再生可能エネルギーが脚光を浴びていますが、お考えを聞かせてください。

 市川 今後、どのような技術革新が起きるかは未知数ですから、原子力はもちろん、再生可能エネルギーにも継続して取り組むべきだと思います。再エネに関しては、ドイツの事例がよく取り上げられます。ドイツでは2020年までに原子力をゼロにすると決めましたが、それまでは原子力を稼働させます。ドイツは原子力が動いていないと思っている人がたくさんいると思いますが、今も9基稼働していて、昨年は発電電力量の15.4%を原子力が発電しています。ドイツですら、経過措置を相当期間とりながら、再エネに取り組んでいることを認識しておかねばなりません。

 ドイツにおける昨年の再エネ比率は23.4%で、その中で一番多いのが風力で7.9%です。ドイツ北部は、バルト海から強い風が吹き、風力発電所が多く稼働していますが、実はこれが問題になっています。強風になると出力が上がってたくさん発電するのですが、ドイツ北部には工業地帯がなく電力が消費されないため、送電線がつながっている近隣のチェコやポーランドに電力が流れていきます。そうするとチェコやポーランドは供給過剰で需給バランスを崩さないよう、火力発電所の出力を落として調整しなければなりません。そのため、こんな状態が続くのなら送電系統を切るとドイツに苦情を出しているほどです。自然任せでコントロールできない再エネに依存すると、そうした事態が起こりうるのです。

 井伊 再エネをめぐってはコストの問題も指摘されています。

 市川 昨年、ドイツの再エネに関するサーチャージは2万6000円にまで上昇しました。月額で2200円ぐらいです。しかも、そのほとんどが4.5%しか発電していない太陽光によるものです。ドイツの家庭はよく耐えているなと思います。再エネは将来、技術革新するかもしれませんので、継続して取り組むべきだと思いますが、現時点においては安定した電源として使えません。エネルギーの3原則である安全性、安定性、経済性の観点では、問題のある電源と言わざるを得ません。発電そのものは安全ですが、供給が不安定なため、停電が発生し生命の危険につながる。そういう意味では、安全とは言えません。コストが高い電源であり、経済性でも問題があります。3原則のどれをとっても問題がある電源です。今後、時間をかけ科学的に3原則に見合った電源にしていくのか、現状では方向性が見えていません。

 石川 日本の政策では振り子が極端に振れる傾向があります。2012年7月から再エネの固定価格買取制度が導入され、もてはやされましたが、導入量が拡大するとやはりこのままではまずいとなって総量規制をする。市川さんが指摘したとおり、ドイツのサーチャージは、上昇しており、ドイツの事例を学んで、これではやっていけないと、今日本では振り子が動き始めている。無尽蔵なエネルギーとして再エネは魅力がありますし、将来、大いに発展する可能性がある。だからこそ、振り子を振らしてダメにするのではなく、ゆるやかに普及させていくことが大事です。

 井伊 具体的にはどのような対策が有効なのでしょうか。

 石川 震災以降、原子力と再エネはライバルという見方がされていますが、そうではなく共存していくべきものです。原子力の稼働率を上げれば、燃料費をかなり抑えられ、収益性が高まります。原子力で稼いだ収益を再エネに役立たせる。エネルギー市場の中だけで再エネを振興、育成していくようにしていくべきではないでしょうか。

 ■感情論に左右されず冷静な報道を

 市川 世の中に氾濫している原子力問題にかかわる情報は、かなり間違いがある。石川さんが言うように振り子がどちらかに振り切った議論が、あたかもニュートラルな意見のように受け止められている。悪意をもった報道、ある哲学に基づくような報道が多くあります。エネルギーは経済問題に直結しますが、それだけでなく国民の暮らしにかかわる問題なので冷静に数字をあげて議論しないとなりません。震災があり原子力を停止させ続けることが、わが国の新たな大災害につながっていく可能性があるわけですから、感情論でないところで議論をしあうべきです。

 小泉元首相が「発明家や科学者の英知を結集すれば、いずれびっくりするような技術が出てくるかもしれない」と発言したことには驚きました。今ない技術が10年後に実用化され、エネルギー分野で大きな比率をもつことは、常識ではあり得ないことです。国の政策が将来あるのかどうかわからないことを基にするのは間違いです。何とかなるのではないかという考え方は、あまりに無責任であり、現実的なリスクを無視したものです。

 井伊 マスコミとしても冷静な報道を心がけたいと思います。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

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