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サントリーがM&A加速、有名ブランド狙い 新興国開拓で成長目指す

ニュースカテゴリ:企業の経営

サントリーがM&A加速、有名ブランド狙い 新興国開拓で成長目指す

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 7月に中核子会社である清涼飲料大手、サントリー食品インターナショナルの株式を公開したサントリーホールディングス(HD)グループが、海外飲料メーカーを対象にしたM&A(企業の合併・買収)を加速している。日本国内の市場が伸び悩むなか、株式公開で調達した資金を武器に国際的に知名度の高い飲料ブランドを買収し、経営規模で勝る欧米のライバルをキャッチアップする戦略だ。激化する国際競争の荒波をかいくぐり、思い通りの買収効果を上げることはできるのか。

 強力ブランドに触手

 サントリー食品は9月、英製薬大手グラクソ・スミスクラインからスポーツ飲料「ルコゼード」と果汁飲料「ライビーナ」の2つの事業を約13億5000万ポンド(約2100億円)で買収すると発表した。

 7月の東京証券取引所1部への上場時に調達した資金約2800億円のうち、有利子負債の返済分などを除いた約2100億円をM&Aなどに使うという計画通りの買収。2020年までに売上高を2兆円に倍増する目標の一環だ。

 「ルコゼード」は英エナジー・スポーツ飲料市場でそれぞれ首位、「ライビーナ」は英果汁・濃縮果汁飲料市場で4位のシェアを誇る。サントリー食品の鳥井信宏社長が「買収(決断)の決め手」と強調するほど強いブランド力を持っている。

 両ブランドの12年の売上高は約5億1000万ポンド。英国のほか、東南アジアやアフリカなどの新興国でも展開しており、「(海外販路が手薄だった)アフリカやアジアへの参入のとっかかりとなる、貴重なアセットを獲得できた」(鳥井社長)という。

 また、サントリー食品の欧州拠点には09年に約3000億円で買収した仏飲料大手オランジーナ・シュウェップスがあり、新たに英国に拠点を広げることで、原材料の調達や生産、物流を共通化することによるコスト削減や販路拡大など相乗効果も狙う。今後は新興国を軸に、両ブランドの売上高で年率5%の成長を目指す。

 少子高齢化で国内市場の大きな成長が見込めない中、日本の飲料各社は海外のM&Aを積極化させている。ライバルのキリンHDやアサヒグループHDがアジアなど新興国を中心にしているのに対し、サントリー食品はこのところ欧州の先進国で、すでに確立された認知度の高いブランド買収に力を入れている。サントリー食品の12年の海外売上高3034億円のうち、欧州は1237億円と4割以上を占め、「欧州に偏りがち」(大手証券アナリスト)と危ぶむ声も出ている。

 というのも、今回買収したグラクソの膝元の英飲料市場は規模こそ欧州2位だが、成長率は年率2.7%と低く、2桁成長の新興国には及ばない。アジアやアフリカにも進出しているものの、売上高の約8割を英国市場に依存している。鳥井社長は「新興国市場では年率10%の成長を見込む」と試算するが、新興国での市場拡大には「分散しているアジアの既存事業を早期にまとめ、欧州事業との相乗効果を発揮するための足場固めが必要不可欠」(野村証券の藤原悟史アナリスト)と指摘されている。

 成功の確率高い

 一方で、日本市場向けオランジーナをヒットさせ、サントリー食品の欧州売上高を年間2桁増に乗せるという実績を上げ、「確立したブランドの買収はメリットも大きい」(藤原アナリスト)ことを証明した。

 キリンやアサヒが新興国で買収した企業の育成に時間と経費をかけ、大きな労力を要していることに比べ、すでに確立された強力ブランドを買収する手法は「ブランドを育てる苦労が小さく、強力なブランドだからこそ世界に拡販できる強さもある。むしろデメリットはほとんどない」(同)とされる。強力なブランドを買うというサントリー食品の戦略は、買収金額こそかさむものの、結果的にリスクが少なく、成功の確率が高いというわけだ。

 ただ、世界市場でネスレやコカ・コーラなど欧米の食品・飲料大手が積極的に拡大戦略を展開するなか、新興国での条件のよいM&A案件は減少し、買収価格も高止まりしている。経営規模で海外大手に大きな差をつけられている日本勢は、新興国開拓で劣勢に立たされ、苦戦を強いられているのが実情だ。

 ますます競争が厳しくなる国際市場。欧州の強力ブランドを武器に新興国市場を切り開けるかどうかは、今回の買収の成否にかかっている。(西村利也)

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