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ダブル気流で“エアコン革命” 「ノクリアX」開発秘話

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ダブル気流で“エアコン革命” 「ノクリアX」開発秘話

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2種類の温度の気流を創り出す世界初の技術を搭載したノクリアX  左右のサイドファンを搭載し、2種類の温度の気流をつくり出す業界初のエアコン「nocria(ノクリア)X」シリーズが、今年3月の発売後、初めての夏を迎えた。富士通ゼネラルの開発チームは、「冷風を体には向けず、快適な涼風を届けられる」と、“空調革命”に手応えを感じている。

 東日本大震災以来、節電意識が高まり、エアコンの風を扇風機で攪拌(かくはん)し、室内を冷やしすぎないようにしながら、涼を得ようという光景があちこちで見られるようになった。これが、ノクリアXの開発のヒントになった。

 特別プロジェクトチームが立ち上がったのは平成22年8月。空調機開発本部国内RAC開発事業部の平律志事業部長は「世の中にない世界初のものをつくろうという気構えはあったが、どんなものをつくったらいいのか、アイデアはそう簡単に生まれなかった」と振り返る。

 開発チームの背中を押したのは、先人たちが築いてきた「気流」で常に業界をリードしてきたエアコン開発の歴史だった。昭和44年に発売した据え置き型「ホームラン冷気」は「より強く、より早く、より遠くへ暑さを吹き飛ばす」がキャッチフレーズ。

 平成11年の空調機で採用した「先進呼吸パネル」は、大きく吸って、大きく吹き出す新たな気流技術を搭載した。

 開発チームの関心も、自然に「気流」をどうコントロールするかに集まった。空調の3要素は温度、湿度、気流。「これまでの他社のエアコンは気流を重要視する機種は少なかった。ここを抑えれば、世界初の商品を世の中に送り出すことができるはず」と、平氏ら開発チームは考えた。

 エアコンの風が健康に悪いといった見方が専門家らから指摘されるたびに、「気流を操ることで、何とか快適な風を届けることができないか」(平氏)との思いは強まっていった。

 時には、真夏に室内で熱中症になる患者がいると聞き、家庭の室内環境改善に果たすエアコンの機能が、力不足であることも痛感した。

 そんなとき、震災後の扇風機の活用を取り上げたニュース映像が開発チームの目に飛び込む。メンバーたちの思いは、エアコンと扇風機を合体させる方法へと傾いていった。

 しかし、扇風機のようなファンをエアコンに付ければ、本体は大きくならざるを得ない。また、音を抑える技術開発も大きな課題になった。扇風機を搭載したエアコンのデザインは何種類もできていくが、どれも一長一短があるように思われた。

 杉山慎治第一技術部長は「コンパクト化と静音技術という壁を乗り越えない限り、ノクリアXの商品化は難しかった」と振り返る。最終的には、左右にファンを取り付けるデザインに収れんしていく。いかに静かに、小さくするか。そこからは技術陣の腕の見せ所となった。

 デザイン部門とのやり取りの中で、新製品の青写真ができあがっていった。だが、ファンの小型化と静音化は、杉山氏らの試作の繰り返しにもかかわらず、解決の糸口がつかめないでいた。

 そんなとき、あるアイデアが杉山氏らの頭に浮かぶ。「風向を変えるのにファン全体を動かすのではなく、ファンの中心を固定したまま、ファンモーターよりもはるかに軽い、風の出口の部分を駆動モーターで動かせばどうか」(杉山氏)。発想の転換により小型化へ設計は一気に進んだ。さらに、摩擦を少なくするための小さな部品を組み込むことで、静音性も飛躍的に向上した。

 ノクリアXが、従来のエアコンでは実現できなかった快適な空調を実現できたのは、室内の温度を下げる(暖房の場合は上げる)ための気流と、室内に「対流」を起こすための気流をそれぞれ専用の送風機で同時に吹き出すことができたためだ。

 冷房時には、設定温度が控えめでも涼感が得られ、冷風を直接浴びないため、冷房が苦手な人も快適さを感じることができる。また、暖房は、サイドから吹き出す気流が暖気の吹き上がりを抑えて広げ、足元から温めることができるという。

 「nocria」はエアコンのアルファベット表記をひっくり返したネーミング。ノクリアXは、その空調革命の先導役を担っている。(小島清利)

 ノクリアXシリーズ 「デュアルブラスター」と呼ばれる左右のサイドファンが付いているエアコン。快適な温度の気流「サイド気流」が、冷房や暖房の気流「センター気流」に作用して最適な気流を創り出す。冷房の場合、冷風を体に向けず、暖房の場合は、暖気の吹き上がりを押さえることができるという。10畳用~23畳用の5種類。想定価格は22万円前後から30万円前後まで。

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