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トヨタの「もっといいクルマづくり」 異質の技術者コラボで描く成長軌道
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歴代プリウス3台
トヨタ自動車は今春、本社工場内にパワートレイン共同開発棟を建設し、それまでは別々に働いていた研究・開発の技術者と生産技術の技術者とを、ここに集約させて「働き方改革」を始めた。研究開発と生産技術とが一体となることで、いわゆる「もっといいクルマづくり」を加速させたい考えである。共同開発棟は一体開発オフィスなどがあり、約2800人が働く。
トヨタが2011年から取り組む新しい自動車開発手法「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」は、15年に発売を計画するFF車から順次導入されていく。ライバル社も使う標準部品の採用を拡大したり、複数の車種や地域にまたがる部品を大量に発注する「まとめ発注」などを始める。
TNGA導入によりトヨタは開発効率の20~30%アップを目指しているが、「原価低減以上に、商品力の向上をTNGA導入では重視している」(トヨタ首脳)という。
内山田竹志副会長は「(共用部品が広がると)、ハイブリッド車(HV)はもちろん、燃料電池車(FCV)などの先端技術で、トヨタはいつも先行していかなければならない」と訴えるが、商品力でも先行を狙う。
そこで、「働き方改革」が導入されたのだが、この原型は1997年発売の世界初のHV「プリウス」の開発にあった。当時、チーフエンジニアを務めた内山田氏が、機械と電気のエンジニアを同じフロアで協働させたのである。
電気はパナソニックのニッケル水素電池の技術者たちだった。内山田氏は「驚いたのは、電池の人たちが加速度試験を実施していたこと。こんなやり方もあるのかと、感心した」と振り返る。プリウス開発の成功が、今回の働き方改革に結びついた。
ただし、異質の技術者がコラボするのは、一筋縄ではいかない側面はある。ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏が、著書「ワーク・シフト」(プレジデント社刊)で指摘する「専門職の人たちは、自分たちの縄張りを守るために、いわばフェンスを張り巡らせている」のは、いつの世もどこの世界でも一緒。
日産自動車とNECが車載用ラミネート型リチウムイオン電池を共同開発するまでには、大変な軋轢(あつれき)があった。プロジェクトに参加したNEC技術者(当時)は「日産の機械エンジニアは100年経過しても変わらないものを作る発想。電池を手掛けるわれわれは、明日食べたらお腹を壊すものを作ろうとする。考え方の違いから衝突は茶飯事だった」と話していた。
生産や技術など機能別の強さはトヨタの特長だ。それでも、縄張りとフェンスを超えて、異質を受け入れて違いを認め合う度量が、個々の技術者に求められていく。縦割りから横軸へとフェンスを超える技術者が増えれば働き方は変わり、トヨタの、そして日本のものづくりは新たな成長軌道を描くだろう。(経済ジャーナリスト 永井隆)