海外情勢

「仲良くして儲けるのが一番」中国への“どっぷり依存”やめられないドイツのジレンマ (3/3ページ)

 ■人権問題でプレッシャーをかけている場合ではない

 それどころか現在、ドイツはさらに中国に擦り寄らなければならない状況に見舞われている。現在、世界に供給されているマグネシウムの8~9割が中国産だが、その生産が中国の電力不足で止まっており、基幹産業の多くがパニックに陥っているのだ。マグネシウムはアルミニウム合金の硬度、強度、耐熱性などに決定的な役割を果たすため、自動車や飛行機をはじめ、ありとあらゆるところで必要とされているが、ヨーロッパではコストが合わず、2001年から生産は中止されている。

 そんなわけで今、マグネシウムの価格は今年の初めの5倍。すでにフォルクスワーゲン社ではマグネシウム不足による短縮操業が始まっており、このままいくと11月末には、ドイツ、およびヨーロッパの多くの工場がストップする可能性があるという。ドイツの金属工業の事業連合会では、外務省に政治的援助を求めており、要するに、旧政府であれ、新政府であれ、中国に人権問題などでプレッシャーをかけることなど今や夢物語だ。

 ■日本もまったく同じ状況を迎えている

 一時、歓迎されたドイツのフリゲート艦のインド太平洋地区への派遣も、よく聞いてみると1993年建造の船で、しかも、航行は商業航路のみ。中国が領有を主張している島々には近寄らず、台湾海峡も避けるというから、中国に対する気の遣いようは大変なものだ。それどころか、メルケル氏のたっての要望で上海への寄港も検討していたが、それは中国に断られたという。

 いずれにせよドイツの新政府の悩みの種は、どうすれば米国の地雷を踏まずに、中国とうまく商売を続けられるかだ。サプライチェーンにおける中国依存を減らすことも考えているというが、環境汚染に直結しそうな金属の製錬などを自国で行うのは至難の業だ。コストも跳ね上がる。そんな折、バイデン政権が対中政策を軟化させてくれているのは嬉しい誤算?

 なお、いつも私の結論は同じになるが、日本の抱える中国依存問題もドイツのそれと瓜二つだ。一刻も早く、大切な産業を日本の手に取り戻せるよう、政府には最大の援助をしてほしい。

 

 川口 マーン 惠美(かわぐち・マーン・えみ)

 作家

 日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ライプツィヒ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。その他、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『移民・難民』(グッドブックス)、『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)がある。

 

 (作家 川口 マーン 惠美)(PRESIDENT Online)

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