海外情勢

「仲良くして儲けるのが一番」中国への“どっぷり依存”やめられないドイツのジレンマ (2/3ページ)

 ■どのみち変えられないのなら仲良くして儲けたい

 先月14日には、習近平国家主席がビデオでメルケル首相に対して「old friend」と呼びかけ、素晴らしい餞別の辞を贈った。old friendは中国では最大の敬意のこめられた言葉だそうだが、メルケル政権の16年にわたる努力のおかげで、ドイツ経済と中国経済は二人三脚で、ともに目眩(まばゆ)いほどの経済発展を果たしたのだから、これはただのお世辞ではない。しかし一方、その中国が一党独裁であり、人権問題でそれほど潔白ではないことも事実で、それも誰もが知っている。

 2007年、首相になって間もなかったメルケル氏はダライ・ラマを官邸に招いたことで、中国より長期にわたって激しい抗議を受けた。以来、メルケル氏の中国に対する人権問題への言及はポーズだけとなった。中国を変えることはどのみちできない。だったら仲良くして儲(もう)けるのが一番というのが、以来、ドイツの国是である。

 今では、ドイツと中国は二国間政府協定を結び、首脳は年に何度も顔を合わせる。2016年から昨年まで、中国はドイツにとって最大の交易相手だ。中国市場なくしてドイツの経済発展はあり得なかったし、これからもあり得ない。メルケル首相の任期中の中国訪問は12回。コロナがなければ回数はもっと増えていただろう。

 ■中国の思惑次第で分断されてしまう危険

 華やかな成功といえるドイツの対中政策だが、問題が少なくとも2つある。

 1つ目は、自分たちが儲けることだけを考えて、EUとしての対中政策を怠ったこと。その間隙を縫って中国は、「一帯一路」プロジェクトの一環として、東欧やバルカン諸国の17カ国ものインフラに多額を投資し、これらを束ねて「17+1」というグループまで結成した。しかも、その17カ国のうちの12カ国がEU加盟国だ。

 これらの国々は当然、多かれ少なかれ中国に借款がある。東欧のEU国と、EUを主導している西側国との間には、そうでなくても意見の違いが多いから、下手をすると、中国の思惑次第でEUがさらに分断される危険が生じている。

 2つ目の問題は、ドイツ経済の行き過ぎた中国市場依存。特に自動車産業はすでに中国の言いなりだし、多くのサプライチェーンは中国に完璧に依存している。また、中国企業によるドイツのハイテク企業や不動産の買収も進んでいるが、これまでメルケル氏にはそれらを修正しようという意思が希薄だった。

 さらにメディアも中国のマイナス面を取り上げることには消極的で、そのため、これだけ中国の影響がドイツ社会に入り込んでいるにもかかわらず、国民の間でそれが危機として意識されていない。つまりドイツ社会には、中国とはどういう付き合い方をしていくべきかをオープンに議論する空気もなかった。膨張している中国の軍事力に至っては、距離が遠いため、脅威と感じているドイツ人はほとんどいない。当然、香港も、ウイグルも、台湾も、ドイツ人にとっては、どれも遠い話だった。

 ■中国を怒らせても自らの首を絞めるだけ

 メルケル首相の対中政策の極め付きは、2020年の12月30日に駆け込みで大筋合意が決まったEU中国包括的投資協定だ。これはドイツが欧州理事会の理事長国であった最終日(最終日は正確には31日)に、メルケル氏が自分の力が及ぶ最後のチャンスを利用して強引にまとめたものだ。これによりメルケル氏は、それまでの親中政治を、自分の引退後も動かぬものにしようとしたと言われる(ただし、現在、欧州議会が対中ブレーキを引いており、批准に至るかどうかが分からなくなっている)。

 こういう経緯があるからこそ、メルケル後のドイツがいったいどちらに舵を切るのかと皆が興味津津になっているわけだが、私は、ドイツの対中政策は大きく変わる余地は少ないと見る。もちろん、新政権に緑の党が加われば、人権問題を責め立てるだろうし、自民党は市場開放を叫ぶに違いない。しかし、中国を怒らせて困るのはドイツの産業界だ。中国攻撃の行き過ぎは、ドイツ企業が許さないはずだ。

 現在、新政権が中心に据えている政策に、デジタル化の促進がある。ドイツは、高速の電話回線や4Gの整備、また、企業や公共機関のデジタル化が遅れており、それらの整備が次期政権の最大の課題の一つだ。さらに今後は5Gの整備も必要で、華為技術(ファーウェイ)を採用するかどうかがかなり前から議論されていた。しかし、華為に関してドイツ政府は、すでに締め出している英国、あるいは、締め出しつつあるフランスなどと違い、いまだに明言を避けている。おそらく、部分的制限を施した上で、採用の方向に決まるのではないか。ドイツが中国に対して強い態度で出るとは考えにくい。

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