米国のバイデン大統領は、アフガニスタンからの米軍撤退で著しい失態を犯すなど、その世界的な指導力が問われている。今回のCOP26で強いリーダーシップを示そうと躍起になるバイデン大統領に対して適切なアシストができれば、ジョンソン首相に強い追い風が吹くと期待される。米国の信頼獲得はジョンソン首相の悲願そのものだ。
他方で、米国とEUの関係は微妙である。当初、EUのバイデン大統領に対する期待は大きかった。しかし先に述べたアフガン問題や、アジア太平洋戦略での混乱、具体的にはフランスの支援によるオーストラリアの原子力潜水艦の開発計画の破棄などを巡り、EUは対米不信を募らせている。これも英国にとって好都合となる。
ジョンソン首相がCOP26に向けて発する強いメッセージは、その実として自身を取り巻く内外の政治的な情勢を色濃く反映したものだ。そうした傾向は、多かれ少なかれ欧米各国の主張に少なからず反映されている。そうした主張に与(くみ)することが真の意味での気候変動対策にかなうことなのか、日本は少し冷静になって考え直した方が良いだろう。
欧米の「正義」にのまれない毅然とした対応を
気候変動対策が国際政治そのものとなって久しいが、とりわけ躍起となっているのが英国でありEUだ。気候変動対策が不可欠だとしても、その進め方や目標は各国の実情が反映されてしかるべきであり、欧州から押し付けで進められて良いものではない。極地探検に準(なぞら)えても、探検家は地形や天候を考慮してさまざまなルートを検討するはずだ。
英国は石炭火力を全廃できたとしても、各国ともそれぞれの事情がある。途上国は資金面、人材面の観点から、石炭火力発電に依存せざるを得ない。日本も原発の再稼働を回避し続けるなら、石炭火力発電をある程度は利用し続けなければならない。英国の成功事例だけを引き合いに出すのはただの暴力であるとしか言いようがない。
英国と親密であるオーストラリアでさえ、メタンガスの削減に関する国際合意への参加を拒否する構えを見せている。牛の曖気(あいき)(要するにげっぷ)には、二酸化炭素の25倍もの温室効果があるメタンガスが多く含まれる。基幹産業である牛肉産業を守る観点から、オーストラリアのモリソン首相は国際合意への参加を拒否したわけだ。
石炭の産出国でもあるオーストラリアは2050年までにCO2の排出量を実質ゼロにするという目標を掲げることを拒否してきたが、COP26を目前に方針を転換、欧米と足並みをそろえた(法制化はせず)。欧米からの批判を交わすためだが、一方で譲れないラインは堅持したわけだ。本来の為政者にはあって然るべきスタンスではないだろうか。
日本からは、総選挙を控える中で岸田首相がCOP26に出席する。岸田首相に求められるスタンスはいたずらな欧米追従ではなく、日本の立場を明確に説明することに他ならない。そして日本の実情に合った削減目標を提示し、理解を得るように努めることだろう。欧米発の「正義」にのまれない毅然(きぜん)とした対応こそ、国際社会の評価につながるはずだ。
土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)(PRESIDENT Online)