海外情勢

「MMT」をめぐる人間模様 叩かれるほど信者を増やす怪しい魅力 (2/3ページ)

 「ばら撒く」キャンペーン

 れいわ新撰組は国債発行を容認することによって財源論をクリアした。代表を務める山本太郎の経済ブレーンは、立命館大学の松尾匡(ただす)教授である。松尾は日本を代表するマルクス経済学者。左翼系経済学者につきまとう悲壮感はなく、明るく楽しく経済成長の必要性を説く学者だ。

 その松尾は「薔薇マークキャンペーン」を主宰している。緊縮財政に反対し積極財政への転換を求める政治運動だが、その一環として賛同する野党の政治家に薔薇マークのスタンプを贈呈している。ちなみに「薔薇マーク」は財政資金を「ばら撒(ま)く」に引っ掛けた造語。松尾らしいネーミングだ。

 薔薇マークキャンペーンでは4月の統一地方選挙や7月の参院選挙で、野党候補者に「反緊縮の経済政策」を掲げるように呼びかけた。具体的には消費増税の凍結、社会保障や福祉への大胆な財政資金の投入、最低賃金の引き上げ、公共インフラの拡充など。財源は国債である。

 ヨーロッパをはじめ世界中でいま反緊縮キャンペーンが勢いづいている。欧州では右派と左派が連携してEUの緊縮財政路線に反旗を翻そうとしている。来年に大統領選挙控える米国では、バーニー・サンダース上院議員をはじめ民主党左派が積極財政主義への転換を主張している。

 サンダースは社会民主主義者を自称する民主党左派の政治家。その経済政策の顧問を務めているのが、ステファニー・ケルトンNY州立大学教授だ。ケルトン教授こそは、MMT推進派の第一人者である。国債を財源にすれば選挙で訴える政策の幅が大きく広がる。

 その教授と長年にわたって親交を温めてきたのが松尾である。ギリシャの元財務大臣を務めたヤニス・バルファキスとも親交がある。世界中の左派が反緊縮で手を結ぼうとしている。

 新星オカシオ・コルテス議員の登場

 米国では主流派の新自由主義、あるいはリフレ派に対抗する経済理論としてMMTが頭角を現してきた。主流派はこの理論を「くずだ(garbage)」(ブラロックのラリー・フィンクCEO)と批判するが、元をたどればケインズに源を発するれっきとした経済理論の一つ。

 MMTはこれまで理論としては知られていたものの、注目を集めることはほとんどなかった。それを政治の表舞台に押し上げたのは、昨年の中間選挙でNY州から民主党候補として立候補、弱冠29歳、最年少で下院議員に当選したアンドレア・オカシオ・コルテス(AOL)議員だ。

 ヒスパニック系の彼女は当選まもない今年の2月、気候変動対策法案を仲間の議員と一緒にまとめた。「グリーン・ニューディール」と呼ばれるこの法案は、環境対策に要する莫大な財源を国債で賄おうとしている。

 政治家が政策を掲げる以上、財源を明記する義務がある。オカシオ・コルテスは莫大な財源の調達手段としてMMTを容認したのである。巨大な財政赤字を抱える米国で、新たな国債の発行という主張は一般的には理解されにくい。だが同氏は財政赤字を積み増しても、必要な対策はやるべきだと主張する。

 このへんは保守の中でも右寄りで、思想や理念で対立するトランプ大統領と相通じるものがありそうだ。財政の健全性より経済成長や国民生活の向上を優先しようとする。思想信条は違っても、考え方は似ている。欧州で左派と右派が連携を強める根拠もここにある。

 主流派が批判すればするほど増える賛同者

 オカシオ・コルテスの主張に、真っ向から異論を唱えるのはむしろ主流派の人たちだ。リベラリストの代表ともいうべきローレンス・サマーズ元財務長官はMMTを「フリーランチ」と感情的に批判する。その上で「MMTには重層的誤りがある」と理論そのものを否定。前FRB議長のジャネット・イエレンも「MMTは超インフレを招くものであり、非常に誤った理論だ」とサマーズに同調する。

 ここに挙げたのはほんの一例にすぎない。いずれも現在の米国や世界経済に大きな責任を有している主流派の官僚や学者、経済人である。この人たちはミルトン・フリードマンの流れをくむ新自由主義あるいはリフレ派を代表するエスタブリッシュメントである。

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