日本経済のあり方がMMT理論の正しさを証明
「MMTがここ数十年主張してきたことが正しいと立証してくれた」。
7月に来日したニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授はこう話す。MMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣理論)とは、独自の通貨を発行できる国は、低インフレが続く限り無制限に国債を発行できるという主張。米国で論争を巻き起こしているが、ケルトン教授はいまの日本経済のあり方が、その理論の正しさを証明しているという。
米国では左派勢力中心に支持層が多いが、日本では反財政緊縮派(以下、反緊縮派)と保守派に支持者が広がっている。
財務省や日銀といった主流派は「異端の論理」と無視する。既存の野党は蚊帳の外。というよりも無関心と言った方がいい。いまのところMMTの支持勢力は呉越同舟でまだら模様。先行きはまだ不透明だが、この理論をめぐる国内の人間模様を探ってみた。
「れいわ新選組」はMMT支持を鮮明にした
米国を中心に突然巻き起こったMMT旋風。民主党左派のアンドレア・オカシオ・コルテス議員が旋風を巻き起こす原動力となったが、それ以上にこの旋風の裏には財政緊縮派(主流派)が主導する経済が大きな壁にぶち当たっているという現実がある。
2015年1月、ギリシャで急進左派連合と右派の独立ギリシャ人による連立政権が樹立された。新政権はEUの財政緊縮路線に反旗を翻し、大幅な赤字予算の編成を訴えた。この動きを封じ込めたのがEUの盟主ともいうべきドイツとフランスを中心とした主流派。押さえ込まれたとはいえ、ギリシャの連立政権が提起した積極財政論が、くすぶっていた反緊縮派に火をつけた。
イタリアでは極右の「同盟」と左派の「5つ星運動」が手を結んで連立政権を樹立した。この政権は内部対立からつい最近瓦解したが、左翼と右翼が手を結んだ裏には反緊縮で、EUに一矢報いようとする政治的な思惑があった。
安倍一強で政局に波風ひとつ立たない日本。立憲や国民など既成野党の支持率は低迷したままだ。そんな野党を尻目に、れいわ新撰組が反緊縮にMMTを結び付けて政界に波紋を巻き起こした。
れいわ新撰組は参議院選挙では予想外の票を獲得、重度身体障害者2人を国会に送り込んだ。選挙公約は(1)消費税廃止、(2)奨学金チャラ(徳政令)、(3)全国一律最低賃金1500円など、とにかく分かりやすい。財源としてMMTを受け入れ、「新規国債の発行」を容認した。これによって大胆な財源の投入が可能になり、公約のアピール度が高まった。
ちなみに立憲民主党の選挙公約は「立憲ビジョン2019」。5つあるビジョンの第1は「ボトムアップ経済ビジョン」、ここでは暮らしからはじまる経済成長がテーマ。第2は「多様性ビジョン」、個人の可能性が芽吹く社会へ、第3が「エネルギー・環境ビジョン」、原発ゼロを実現し、新エネ・環境立国を掲げている。
いずれも理念先行気味で、一見しただけでは何を言いたいのかわからない。「消費増税凍結」も掲げるが、代替財源は「金融所得課税や法人税などを見直し、税の累進性を強化して公平な税制へ転換します」と歯切れが悪い。
政権を狙う左派勢力にとって“鬼門”は、政策の裏打ちとなる財源をどうするかだ。立憲民主のように金融所得への課税や法人税の見直しを掲げるのは簡単だが、実現可能性となると途端に怪しくなる。その点国債の増発は分かりやすいうえに、とりあえず有権者の負担も伴わない。そこにお墨付きを与えたのがMMTである。政策を訴えたい野党には渡に船ともいうべき理論だ。