【高論卓説】まとまらない受動喫煙対策 飲食店保護がビジネス変換を妨げ (2/2ページ)

 日本たばこ産業(JT)の「2017年全国たばこ喫煙者率調査」によれば17年の成人喫煙率は男性28.2%、女性9.0%で、10年前と比べると男性が12.0ポイント、女性が3.7ポイントも減少している。男性の喫煙率はこの20年で半減。禁煙で売り上げが落ちるのではなくて、喫煙人口の減少で売り上げが落ちるのだ。増大している禁煙者ビジネスは伸展するトレンドにある。

 だとすれば、喫煙を認めることで150平方メートルの飲食店を保護することは、飲食店のビジネスにネガティブなインパクトを与えることになりかねない。廃業する恐れがあるから現状維持を図るために保護しているつもりが、保護することでビジネスの減速に加担しかねない。少なくとも、禁煙推進に伴うビジネス変換の機会を損ないかねない状況に、追い込んでいるようにみえる。30平方メートル以下の飲食店で全面禁煙によりビジネスを大伸展させた実例をモデルとして言いはやすこと。これが受動喫煙対策の議論を合意形成していくための早道である。

 国が注力すべきことは、世の中のトレンドや健康増進の理念と離れたところで、当事者の利害調整をして既得権益の配分をすることではないはずだ。喫煙率の低下というトレンドと、禁煙の推進という一層の環境変化の中で、飲食店自体のビジネス伸展のための変革をサポートしていくことなのではないか。

 何も厚労省だけがその役割を担うことを期待しているわけではない。一例を挙げれば、金融庁は、従来のいわば金融機関のあら探し監督体制から、金融機関の渉外機能を強化して取引先企業の成長を促す支援体制に、本格的に移行しているようにみえる。私も一端を担わせていただいている静岡銀行の行員・取引先一体の人材開発プログラムはその先駆的なモデルだ。

 監督官庁が、その機能を継続させながらも、規制行政に甘んじることなく、管轄業界の伸展に貢献する政策をダイナミックに展開していくことが、わが国の再生に不可欠だ。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年8月にモチベーションファクターを設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社)。55歳。長野県出身。