トランプ次期米大統領が21日、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から離脱する意志を表明し、日本政府は危機感を強めている。米国が参加しなければTPP発効は絶望的になり、アジア太平洋地域の経済秩序の主導権を中国に奪われかねないからだ。日本政府はあくまで発効を前提にTPP承認案と関連法案の今国会での承認・成立を目指し、米国への働きかけを続けていく。
安倍晋三首相は21日、訪問先のアルゼンチンで開いた記者会見で、TPPに関し「米国抜きでは意味がない。根本的な利益のバランスが崩れる」と述べた。しかし、その後にトランプ氏の離脱表明が出た。
TPP参加国からは米国以外の11カ国での発効を求める声も出ている。ただ規模は極めて小さくなり、経済効果は薄い。
トランプ氏の離脱表明後の22日、菅義偉官房長官は記者会見で「米国やほかの署名国に対し、国内手続きの完了を働きかける」と発言、石原伸晃TPP担当相も「立ち止まることはできない」と強調した。岸田文雄外相は「トランプ次期政権関係者とも意思疎通を図る」と述べた。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)は20日採択した首脳宣言で、参加21カ国・地域からなるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)実現を改めて掲げた。
土台として最重視されてきたのは日米主導のTPPだ。しかし頓挫すれば、中国主導で米国不参加の「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」に軸足が移ることが確実視される。
中国中心の貿易体制では知的財産保護のルールの透明性を確保できないといった指摘が根強い。首相の求める「自由で公正なルールに基づく経済圏」実現に向け、政府はトランプ氏に米国の役割の重要性も訴えていく。(山口暢彦)