米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げのためらいにも政治の影がある。FRBは物価と並んで雇用にも責任を負う。大統領選と同時並行の総選挙に直面している議員たちは利上げには批判的だ。このまま、日本の為替や金融政策が大統領選に振り回されるような印象を市場に与えてしまうと、投機ファンドはますます円買い投機に興じるようになり、円高は加速しかねない。
日本政策投資銀行によれば、大多数の大企業の想定為替レートは1ドル=110円前後で、同100円水準を超える円高は企業を萎縮させる。実質賃金はことし初め以来、アベノミクス開始以降、初めて月連続で上昇し始めたが、息切れしかねない。給与に連動する個人消費の回復軌道も破壊される。
政府が急激な円高には円売り市場介入で対応するのは当然だが、効果は長続きしない。重要な鍵は日銀が握る。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は産経新聞との単独インタビューで、マイナス金利をさらに引き下げの余地ありと発言した。マイナス金利拡大には日銀内部に慎重論も多いが、大型経済対策の成否にも関わる。黒田総裁は大局的に決断すべきだ。(編集委員 田村秀男)