対照的に、米国の賃金動向はドルの対円相場はもちろん、貿易相手国通貨の加重平均相場とも無縁であり、相関関係はない。自由市場原理のお手本として評価される米国だが、賃金は下がっても一時的で、中長期的には一貫して上昇を続けている。
雇用情勢は米国の政策や政治を突き動かし、失業者が増え、賃金が下がれば政権も議会も支持を失う。ドル高になって産業競争力が低下して雇用に悪影響が出れば、自らドルを下げずに、日本などに通貨高圧力を加え、賃上げ基調の維持を図るわけである。
事実、現在の円高は日米間の金利差の縮小に加え、米国政治情勢、つまり今秋の大統領選がかなり後押ししている。民主党・クリントン、共和党・トランプの両候補ともドル高に伴う産業競争力低下を恐れ、円高・ドル安のトレンドを維持させたい。クリントン候補を支援するオバマ政権は日本が円売り市場介入をさせないようしきりに牽制(けんせい)している。トランプ候補も日本が介入すればライバルに負けず激しく非難するだろう。