ディーラー緊迫…“トランプショック”で激震 日本に逆風 円高ドル安拭えず

 

 米大統領選で共和党候補のトランプ氏が勝利する大番狂わせで、世界の金融市場に激震が走った。9日の東京市場では投資家がリスク回避に傾き、日経平均株価が一時1000円超の急落となり、円相場は一時1ドル=101円台まで急騰するなど、6月の英国民投票で欧州連合(EU)離脱派が想定外に勝利した当時をほぼ再現するような流れとなった。どのような政策を打ち出すのか読めないトランプ大統領の誕生で世界経済の先行き不安が高まるのは必至で、金融市場は不安定な展開が続く公算が大きい。

ディーラー緊迫

 「ドル円5本売りたい!(500万ドルを売って円を買いたい)」

 東京外為市場の円相場が急騰した9日の日中。東京・大手町にあるみずほ銀行のディーリングルームでは、為替取引を手掛けるディーラーの緊迫した声が飛び交っていた。開票状況が更新されるたびに為替取引の注文が膨らみ、慌ただしさに包まれた。

 「事前予想では、最終的に民主党候補のクリントン氏が勝利するとの見方が多かったので、大きなサプライズ(驚き)だ。(日本時間の)朝方の楽観が、悲観に変わっていった」。三井住友アセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジストは、“トランプショック”に見舞われた9日の東京市場についてこう語る。その上で「年内いっぱいは世界的に不安定な相場展開が続きそうだ」とみる。

 金融市場では、英国民投票でEU離脱が決まった6月24日にも似たような光景が繰り広げられた。EU残留派が優勢との大方の予想に反してEU離脱派が勝利し、円相場は一時1ドル=99円00銭まで急騰、平均株価が一時1300円超も下落した。

 今回も、前日8日の米ダウ工業株30種平均が続伸したのを受け、9日の平均株価も上昇して始まるなど、朝方はクリントン氏勝利を織り込む流れだっただけに、それだけ反動が増幅された。

不確実性高まる

 市場関係者がリスク回避に動くのは、政治経験がなく、選挙戦で極端な政策を訴えてきたトランプ氏が大統領になれば、米国の政治や経済、外交政策の先行きが読めないという不確実性が高まるためだ。保護主義的政策を掲げ、為替をめぐってはドル安志向とみられており、日本経済にとって逆風となる円高ドル安につながる懸念は拭えない。

 ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「世界経済の先行き不安などから、年内は基本的に円高・株安基調を想定せざるを得ない」と話す。その上で、「金融市場は時間をかけてトランプ大統領の誕生を消化し、落ち着きどころを探っていくことになるだろう」と指摘する。金融市場は今後、トランプ氏の政策に関する発言や新政権の閣僚人事などを見極める展開となりそうだ。