人民元SDR入りから1カ月 中国が元安容認、対ドルで6年ぶり安値

 

 【上海=河崎真澄】外国為替市場で中国の人民元安傾向が続いている。元が国際通貨基金(IMF)の準備通貨である「特別引き出し権(SDR)」に組み込まれて1日で1カ月を迎えるが、この間に対ドル相場は約1.5%下げ、一時6年ぶりの安値をつけた。

 中国は9月の20カ国・地域(G20)首脳会議や10月のSDR入りという重要日程が終わるまで、元安を抑えてメンツを保った。だが日程をこなし、「低迷する輸出のテコ入れ狙いで元安容認に転換した」(アナリスト)とみられている。

 31日の朝方に中国人民銀行(中央銀行)が上海の外国為替市場で設定した対ドル基準値は1ドル=6.7641元。前営業日比0.0217元の元高方向に誘導した。だが、同日午後4時半(日本時間同5時半)の終値は結局、1ドル=6.7708元と同0.0087元のわずかな元高に終わった。市場では元安への圧力がなお強い。

 今後の相場は2008年9月のリーマン・ショック後に事実上、固定された1ドル=6.83元に接近し、7元台も視野に入る。

 中国の輸出は9月まで6カ月連続で前年同月を下回った。直近では元安で輸出が上向くというより、「元安にしなければ輸出はさらに落ち込む」との危機感が高まっているという。仮に元安が他国の通貨安競争を誘発すれば、世界経済は混迷の度合いを深める。

 さらに「規制だらけだった中国の通貨政策も、SDR入りで域外との資本取引解禁や、完全な変動相場制への移行に駒を進めざるを得なくなる。当局の相場管理が及ばなくなれば元安に振れやすい」(アナリスト)との見方から市場では先安観が広がる。

 また、「米の利上げ観測で(ドル買い元売りを見越した)中国からの資本流出が加速した」(丸紅中国法人の鈴木貴元・経済調査チーム長)との面もある。

 9月末の中国の外貨準備高は3兆1663億ドル(約330兆円)で前月比で188億ドル減少。11年5月以来、約5年ぶりの低い水準に落ち込んだ。

 岡三証券の上海駐在チーフエコノミスト、後藤好美氏は、「SDR入りで市場の需給が相場に一段と反映されやすくなったことも元安の要因のひとつ」とした上で、「SDRブランドを手にした中国は(元安による)『弱い通貨』とのレッテルで『人民元の国際化』が遅延することは望んでおらず(相場の)安定化をめざすだろう」とみている。

 いずれにしても、中国は5年に1回の共産党大会を来年秋に控え、経済や金融政策の“失点”が党内権力闘争の道具に利用されやすいタイミングにある。市場の動向よりも、政治的な動機が大きく影響する異形の為替相場が揺れている。