温暖化対策計画めぐり応酬 規制先行の環境省に神経尖らせる経産省と産業界

 

 2050年以降を見据えた地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」の発効が近づく中、日本でも長期戦略の検討が本格化している。環境省は温室効果ガスの削減を日本人のライフスタイルや経済・社会構造の変革にまで結び付けようとの姿勢。一方、経済産業省や産業界は規制的政策が先行することを警戒する。実効性のある対策の在り方をめぐる駆け引きが盛り上がってきた。

 「従来と同じ対策ではとても達成できない。あらゆる分野の方々の知恵、施策を総動員する」。第3次安倍晋三再改造内閣で初入閣した山本公一環境相は、フジサンケイビジネスアイなどのインタビューに対し長期戦略の策定に向けた意気込みを語った。

 閣議決定した「地球温暖化対策計画」では、50年までに温室効果ガス排出量を現在より80%削減する長期目標を盛り込んだ。実現に向けた切り札として環境省が期待するのが、炭素に価格を付け、市場メカニズムに基づいた取引で二酸化炭素(CO2)排出を抑制する「カーボンプライシング」だ。

 石炭や石油といった化石燃料の使用に税金をかける「炭素税」や、企業に一定の排出枠(温室効果ガス排出量の限度)を設け、余裕のある企業が達成できない企業との間で排出枠を売買する「排出量取引制度」などがその代表例といえる。

 山本氏も「経済的インセンティブ(動機付け)の大きさを考えれば十分検討する必要がある」と述べる。

 環境省は長期戦略を検討する有識者会議を7月に設置。年度内にカーボンプライシングを含む長期戦略の具体案をまとめる。

 ■電源構成置き去りなら“空論”も

 こうした環境省の動きに神経をとがらせるのが産業界だ。経団連副会長や石油連盟会長を務めるJXホールディングスの木村康会長は「経済活動に負の影響を与え、研究開発や(環境技術の)イノベーションを阻害する。地球規模の温暖化対策にむしろ逆行する」と訴える。

 経団連は、産業界が自主的に取り組む低炭素社会実行計画に基づき排出削減を進めている。規制的手法で排出削減を義務付けられれば企業の競争力を損なうとしており、民主党政権時に検討された国内排出量取引制度の導入も見送られた経緯がある。

 欧州連合(EU)は温暖化対策の柱として域内排出量取引制度(EU-ETS)を05年に鳴り物入りで導入したが、リーマン・ショックや欧州債務危機による企業活動の低迷で排出枠が大量に余り、価格下落で機能不全に陥った。経産省は今年度内に有識者会議でこうした海外の事例などを研究し、来年度にも本格化する政府全体の長期戦略の検討に備える。

 パリ協定では、20年までに今世紀半ばまでの長期戦略の策定を求めている。ただ、日本が既に提出した30年度までに13年度比26%削減の目標ですら、厳しい省エネ対策や原子力発電所の着実な再稼働など、実現に向けたハードルは高い。

 政府が原発の新増設や建て替えの議論を封印したままのため、30年以降はエネルギー起源CO2の約4割を占めている電力部門でどの程度削減できるかの見通しが立たない。勢い、現時点の議論は実現性が不透明な革新的技術の開発や、排出量取引などの規制的な手法に頼らざるを得ない。

 3年に1度改訂するエネルギー政策の指針「エネルギー基本計画」の見直し議論が来年度にも始まるが、経産省内では「原発の再稼働が順調に進まない現状では、新増設の議論は時期尚早」(幹部)との声が漏れる。 温暖化対策をめぐる議論の土台となる電源構成(エネルギーミックス)が置き去りになれば、長期戦略は実現性を度外視した空論になる可能性がある。(田辺裕晶)