なぜ?江沢民氏が急にアイドル化 習近平政権に対する中国国民の不満の裏返しか

 

 【北京=矢板明夫】中国のインターネットなどで最近、2003年まで国家主席を務めた江沢民氏が若者などからアイドル視される現象が起きている。「蛤蛤(ハハ)」や「長者」といったあだ名がつけられ、面白くおかしく書かれた似顔絵も多く出回っている。17日に90歳の誕生日を迎えた江氏が急に人気を集め始めた理由として、国内に対し言論分野で締め付けを強化し、景気低迷に有効な対策を取れない現在の習近平政権に対する不満の表れだと指摘する声がある。

 江氏の誕生日の17日は朝から、ネット上の「天涯社区」などの有名掲示板に「90歳おめでとう」「長生きしてください」といった書き込みが殺到。「蛤蛤」とは、江氏の容姿が「カエル」(中国語で蛤蟆=ハマ)を連想させることからきたようで、江氏を尊敬することを指して「膜蛤」(カエルにひれ伏す)といった新語まで次々誕生している。

 一方、「長者」は中国語でもともと「年配者」の意味だが、江氏が以前、記者会見で自分のことを「長者」を自称したことから、今では江氏の代名詞になりつつある。

 ネットで実名ではなく、あだ名が多く使われた背景には、ネット言論が厳しく監視される環境のなかで、政治家の名前を直接入力すると、検閲に引っ掛かり、書き込みが削除される可能性があるからだ。

 1989年の天安門事件後に長老たちに指名され、最高指導者となった江氏は現役時代、決して人気の高い政治家ではなかった。気功団体、法輪功を弾圧したことなどで、スペインなど複数の国で人権弾圧などの容疑をかけられたことがある。江氏が70歳や80歳の誕生日を迎えたとき、中国国内で祝うようなムードはなかった。

 引退から10年以上たって脚光を浴びる江氏について、北京の人権派弁護士は「江沢民時代の中国はいろいろ問題があったが、少なくとも高度経済成長があり、言論に対する締め付けも緩かった」と指摘したうえで、「習近平政権を直接に批判できない人々が、江沢民をもち上げることで、今の政権をけなそうとしている狙いがある」と話した。