ヘリマネー導入構想が浮上 政府・日銀の財政と金融の一体化課題
安倍晋三首相周辺で、日銀が国債を買い切って財政資金を提供する「ヘリコプターマネー(ヘリマネー)」政策の導入構想が浮上している。市中銀行経由では家計や企業に流れにくい巨額の日銀資金を、財政を通じてインフラ整備や教育などに投入、脱デフレ・経済再生を目指す。財政規律順守や日銀同意の条件が課題となる。
前内閣官房参与の本田悦朗駐スイス大使はこのほど、安倍首相に「今がヘリマネーに踏み切るチャンス」と進言した。首相は本田氏らの勧めに応じて、12日にバーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長と意見交換した。前議長はヘリマネー論の権威として知られ、8年前にリーマン・ショックが起きると、直ちにドル資金の大量発行に踏み切った。財政とは直接連携させなかったが、金融恐慌を終わらせ、米景気を回復させた。
本田氏と並んで首相の信頼が厚い現参与の浜田宏一エール大学名誉教授は12日、「一度限りという条件なら、ヘリマネーを検討してもよい」と筆者に打ち明けた。浜田参与はもともと金融緩和を重視する半面で財政出動には慎重だが、2014年度の消費税増税後、デフレ圧力が再燃していることを憂慮している。
デフレで消費が萎縮する中で金融緩和しても、民間の借り入れ意欲は乏しい。市中銀行は日銀資金を日銀当座預金に留め置くか、資金需要が旺盛な中国など海外向け融資に走る。日銀はこの2月にマイナス金利政策に踏み切ったが、円高を止められない。財政を活用しない限り、アベノミクスは回生できそうにない。
異論も多い。日銀が財政資金を直接賄うようだと、財政規律がないと市場にみられて、円や国債への信認が失われる恐れがある。黒田東彦日銀総裁も消極的だが、日銀が金融機関保有の国債を買い上げる現行の緩和方式で、ヘリマネー効果を実現する道はある。要は財政と金融の一体化だ。
まず、政府と日銀は協定を結ぶ。日銀は市場で買い取った国債を再売却せず、半永久的に保有する。政府は取り決めの範囲内で国債を発行する。政府の債務増加分は日銀の資産増加で相殺されるので、政府の債務は実質的に増えない。インフレ率が一定程度上昇すれば、日銀は国債購入を打ち切るし、政府が消費税率を引き上げるようにすれば、財政規律にも沿う。安倍首相は慎重に検討した上で、最終決断するだろう。(産経新聞特別記者 田村秀男)
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