カンボジア・プノンペン生まれのリティ・パニュ監督は、ポル・ポト(1925~98年)率いる「クメール・ルージュ」が70年代に数百万人もの国民を虐殺した悲劇に対し、映画を通してカンボジア人の記憶を掘り起こし、後世に伝えようと精力的に活動してきた。自身も少年時代にクメール・ルージュ支配下の過酷な労働キャンプに送られ、父母や親類を過労と飢餓(きが)で失うという筆舌に尽くしがたい過去にさいなまれてきた。
そんなパニュ監督の新作「消えた画 クメール・ルージュの真実」は、自伝ドキュメンタリー。悲劇へのアプローチの手法が独創的で異彩を放っている。パニュ監督は、犠牲者が眠るカンボジアの大地の土で作った個性豊かなクレイ人形たちを多数登場させ、自らが少年時代に労働キャンプで目にした出来事を克明に再現してしまったのだ。時折挿入される当時のプロパガンダ映像に登場する世界がいかに無機質で没個性的なものだったかを、無言のクレイ人形たちが雄弁に“語ってくれる”ところが実に面白い。