国にはそれぞれイメージが伴う。日本ならきっと寿司やマンガ、治安の良さなどで、イタリアならおいしい料理とハイセンスなファッション、キューバならモヒートにサルサにアメ車だろうか。そしてメキシコは…。麻薬カルテルにドラッグ戦争と、どうも物騒なイメージが先行してしまう。
ネット上の旅行情報も、昼夜を問わない拳銃強盗や窃盗の被害などばかりで、私の心は不安でいっぱいのままメキシコの首都、メキシコ市に到着した。
すべての貴重品を身につけた移動は、身ぐるみはがされたら精神的にも経済的にもかなり痛手なので、常に緊張を伴う。55リットルのリュックとともに入る薄暗い地下鉄の構内は雰囲気が重たく、人々の表情も険しい。あの人も、この人も、私と私の荷物を狙っているような気がする。リュックを足もとにおいて、周囲に神経をとがらせた。
でも、せっかく現地に足を踏み入れ、自分の目で見て、自分の耳で聞いているのだから、イメージの中をさまようのは止め、この先入観をいったん置いてみる。つまり、直感と匂いに敏感になり、気づきを大切にする。骨が折れるこの作業を通して知るまっさらな「くに」は、イメージの中の国とは異なることが多々ある、と言い聞かせながら。