アバド氏はヴィルヘルム・フルトベングラー(1886~1954年)に心酔し、同世代のダニエル・バレンボイム氏(71)やズービン・メータ氏(77)とともにその演奏を研究した。オーケストラへの接し方も「独裁者としてオーケストラを締め上げるアルトゥーロ・トスカニーニのやり方は好きになれません。フルトベングラーのように、演奏家と一緒になって音楽を作っていくやり方が好きです」。対話を重視するアバド氏の姿勢は、オーケストラの団員にも歓迎された。
また、12年間芸術監督を務めたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を、バロック、古典派、ロマン派、現代音楽と、それぞれの時代にふさわしい音で演奏できるように改革するなど、常に「革新」を希求する精神を持っていた。
守備範囲は、バロックから現代音楽と幅広かったが、どうしたわけかジャコモ・プッチーニだけには手を出さなかった。2003年に世界文化賞を受賞したさい、その理由を問うと、アバド氏はこう答えた。
「プッチーニが嫌いなわけではありません。ただ、私は革新にひかれるのです」(桑原聡/SANKEI EXPRESS)