【本の話をしよう】
森鴎外に「普請中」という東京を舞台にした短編があるが、現代でも都市という場所は常に工事が行われている。何年も続いていた地下鉄工事がやっと終わったかと思えば、すぐそばで建物を壊している。東京の街角では特に、まだまだ新しいと思っていた堅牢なビルさえある日あっさりと解体され、次々と新しい施設へ人が押し寄せ、それもすぐに飽きられていく。
人間と廃棄の文化
都市の成り立ちに興味を持って人文地理学を学んでいた頃に出会った本の中でとりわけ印象に残ったのが『廃棄の文化誌』だった。原題は「Wasting Away」。単に「廃棄する」ことだけでなく「荒廃」「無駄」「浪費」といった意味も含まれる。
この本は、都市計画家ケヴィン・リンチが残した原稿をまとめた最後の著作。人の生活には「廃棄」がつきものである。食べればごみも排泄物も出るし、生活道具も住居もやがては廃棄される。ごみ処理やリサイクルから葬送まで、人間と廃棄にまつわる文化を丹念に考察している。