【本の話をしよう】
『掏摸〈すり〉』が米ウォールストリート・ジャーナルの2012年ベスト10小説に選ばれるなど、いま海外で注目を浴びる芥川賞作家、中村文則さん(36)。純文学の印象が強いが、新刊『去年の冬、きみと別れ』ではミステリーに挑戦した。今までの自分の枠にとどまることなく、その先にあるものを目指して走り続ける。
昔からドストエフスキーやカフカなど、海外文学に影響を受けてきた。それだけに、「海外での評価はうれしい」と語る。「米国に行ったときに、『こういった作品は読んだことがない』と言われたんです。合理主義の米国では、翻訳はお金がかかるため、よほどの独自性がないと出版されない。自分が書いてきたのは普遍的、本質的なこと。それは国内でも海外でも関係ない。今まで通りのものを突き詰めて、僕にしか書けないものを書いていこう、と改めて思いました」
すでにゲラの段階で英訳オファーが来たという今作は、ミステリー仕立て。「グイグイ読める大人のミステリーに仕上がっていると思います」