1967年の第三次中東戦争(6日戦争)でアラブ連合軍を支持したソ連はイスラエルとの外交関係を断絶した。外交関係を断絶した場合、何かあった場合の窓口(利益代表)になることを第三国に依頼する。第二次世界大戦中、米国における日本の利益代表をスペインが、日本における米国の利益代表をスイスが務めた。ソ連におけるイスラエルの利益代表は、オランダが務めた。東西冷戦中、米ソ間の重大懸案は、ソ連からのユダヤ人出国問題だった。ソ連在住のユダヤ人に対して、イスラエルへの入国ビザを発給する作業はモスクワのオランダ大使館が行っていた。1980年代後半、ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長が、ユダヤ人の出国要件を緩和すると、イスラエルの諜報機関員が、オランダの外交官という建前で(当然、ソ連当局の了承を得て)、オランダ大使館で勤務し、イスラエルの入国ビザ発給に従事するようになった。
ロシアのユダヤ人は体制側、反体制側の双方に強力なネットワークを持っている。ユダヤ人たちは、苦しいときにリスクを負ってユダヤ人の利益を守ったオランダに好意的だ。今回、ロシア当局が乱暴な手法でオランダに圧力をかけていることに対して、ユダヤ人たちは批判的だ。このことをプーチン政権は過小評価している。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS)