「私、若年性認知症になるかもしれない」。突然、母(61)からそんな電話を受けた。親戚に誘われて米企業に遺伝子検査を頼んだところ、その結果が届き、60~80歳までに若年性認知症になる確率が通常の2~4倍だったというのだ。
遺伝子検査とは、DNAの配列を調べ、特定の病気特有の配列や病気のかかりやすさを調べるもの。最近では、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査で乳がんになりやすい変異が見つかったとして、予防のため乳房を切除したニュースが大きく報じられた。「遺伝子でがんになりやすいかどうかが分かるのか」と驚いた人も多いだろう。
おみくじに「病気に注意」とあっても心配になるくらいだから、それが自らの遺伝子に基づく結果となれば、動揺するのは当然だ。だが、65歳未満が発症するのが「若年性認知症」であって、80歳で発症したら若年性ではない。電話口でそう伝えたが、「娘の顔を忘れたらどうしよう」と心配性の母の不安は増すばかりだ。
そもそも、こうなることは始めから見えていた。母から「安く遺伝子検査ができるんだけれど、やった方が良いか」と相談を受けたとき、私は「お遊び程度なら良いが、おすすめしない」と答えていたのだった。