バレリーナをうらやましいとずっと思っていた。身体能力の高さや優雅な挙措に憧れたからだけではない。職業人としてうらやましかった。
無論、プロのバレリーナになるまでには過酷な練習と非情なまでの選抜が繰り返される。10年以上も前だが、ボリショイ・バレエ学校のレッスン風景を見学させてもらった。教室の中で年端もいかない少女たちが1列5人ほどで4列に並ばされていた。1列目は一番上手なグループ、最後の列は下手なグループだ。幼いからといって容赦はない。序列は実力で決まることをたたき込まれる。4列目の女の子の何人かは、しゃくりあげながらジャンプの練習をしていた。
こんな厳しい職業をなぜうらやましいと思ったのか? それは、ひとたび舞台に立つことができれば、そして短くてもソロのパートなどがあれば、自分の持てる力や個性をだれの思惑も影響も受けずに発揮できる-と考えていたからだ。
バレエ団の指導部にいかに気に入られ、抜擢(ばってき)されたとしても、見るほどのものはない、と観客に判断されればそれまで。実際、ときどきの芸術監督に抜擢され、新作の主役を務めながらその後を聞かないダンサーは多くいる。実力だけが純粋に評価される世界なのだと思っていた。