気候変動「体と心むしばむ」 英大学研究者、健康被害で報告書
地球温暖化などの気候変動によって、人の体や心の健康がむしばまれる「医学的緊急事態」が迫っているとする報告書を英国の大学の研究者が23日、発表した。洪水や熱波、干魃(かんばつ)などの異常気象によって伝染病の蔓延や食料不足による栄養失調のリスクが高まるだけでなく、屋外での活動が制限され、運動不足やストレスから心臓疾患や脳卒中、糖尿病の患者が増大すると指摘。「過去半世紀の医療の進歩で人類が獲得した良好な健康状態が台無しになってしまう」と警告している。
ストレスが病気誘発
「(気候変動は)非常に深刻で、人類の健康と今後の生活に破滅的かつ潜在的な悪影響を与えるだろう」
報告書をまとめたユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の国際保健学研究所の責任者、アンソニー・コステロ氏はロンドンで行われた記者会見で、こう訴えた。
ロイター通信や英紙デーリー・テレグラフ(いずれも電子版)などによると、報告書はUCLやケンブリッジ大学などに所属する欧州と中国の研究者45人がまとめ、世界5大医学雑誌の一つである、オランダの「ランセット」に発表した。
研究者は気象、生物、健康、エネルギー、地理など幅広い分野から結集。気候変動が人の健康に及ぼす「間接的リスク」について世界で初めて具体的な研究結果として示した。
報告書では、洪水や干魃といった異常気象で途上国ではマラリアやコレラといった感染症が広がり、食料不足による栄養失調も深刻化すると指摘。さらに先進国などの都市部では、気候変動に加え、その原因である大気汚染の悪化により、屋外で運動やレジャーを楽しみ心を休める時間が奪われ、肥満に加え、ストレスが蓄積。心臓疾患や糖尿病、脳卒中などの疾病のほか、精神疾患のリスクが高まると強調。「気候変動による間接的リスクはこれまで極めて過小評価されてきたが、人類に与える影響は想像以上に大きい」と結論付けた。
「科学総動員」危機感あらわ
こうした健康被害を防ぐには、温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を削減するため、化石燃料からの脱却が急務と指摘。とりわけ中国とインドでのCO2削減が重要とし、放置すれば数百万人が命を落とすと訴えた。
報告書をまとめたUCLの人の健康と生産性研究所の責任者、ヒュー・モンゴメリー氏は、こうした状況を「医学的緊急事態」と宣言。「利用可能な科学技術を総動員し、緊急に対応することが必要だ」と、危機感をあらわにしている。
国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は最新の報告書で、今のペースで温室効果ガスの排出を続ければ、21世紀末の平均気温は20世紀末に比べて最大4.8度上昇。海面上昇を招き、干魃や洪水、暴風雨といった異常気象により、「深刻で、取り返しのつかない不可逆的な悪影響を及ぼす恐れがある」と警告している。
地球が危機に直面するなか、ローマ法王フランシスコ(78)は18日に温暖化を放置すれば「最後の審判の日がやってくる」との異例の“教え”を発表した。
報告書をまとめたUCLのコステロ氏もこう言って警鐘を鳴らした。
「今後10年以内にアクションを起こさねば、ゲームオーバーだ」(SANKEI EXPRESS)
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