ただし、「従来の薬物療法とそっくり置き換える、という種類のものではありません」と、全島実施に先立ち試験的に「自然療法の処方」を行い、効果を確認したクロエ・エヴァンス医師は語る。「病気を薬で治す方法はいくらでもあります。でも私たちは患者さんたちに自分で自分の体を上手にケアする方法も学んでほしいのです。患者さんたちも、自分の治療に権限を持てることを喜んでくれますよ」。
幸い充実した医療ケアを常に手軽に受けられる私たちは、病院に行けば医者の治療や薬ですぐに治してもらえる、という受動的でマジカルな期待を抱きがちだ。もちろん医療サービスが信頼できるのは絶対的に素晴らしいことだが、その一方でこの自然処方プログラムの背景には、患者が自然と触れあい自分の体に耳を傾けることで「自分で自分の体をケアする」という能動的な感覚を取り戻すことへの啓蒙があるようだ。
高齢者向け施設での自然利用も
このイニシアチブは地元密着型ながら、他の国の医療機関にも自然療法の積極的な活用を呼び掛けている。また、ヨーロッパの他の国でも、障害を持つ人や高齢者のための施設で農場などが併設されているものが既に多く存在する。
その一例がオランダの「デ・ポート」。デイケアと入所の二部門があり、現在の入居・通所者は60歳から92歳までの痴ほうや精神障害のある高齢者だが、全員が毎朝タクシーかボランティアの運転で契約農園へ「出勤」する。「意義のある活動」を基本方針としており、少なくとも午前中は全員、家畜の世話や畑仕事、農園で収穫した野菜を利用して職員と利用者全員分の昼食を作るなど、実益のある仕事をする。
昼休みをはさんで午後は外に設置されたテーブルに座ってボードゲームをしたり、他の通所者や職員と会話を楽しんだりする人もいるが、そこでも天気を味わい、他者とつながることが重要視される。