その時に、同期がポツリと言った言葉がこれ。やりたくないことはあっても、実はやりたいことなど何もないことに気づいた。末井昭氏の名言「若い奴は何かをやりたい、やりたいと言うが、実はやりたい衝動があるだけであって、やりたいことなど何もないのだ」にも通じる一言だった。
私にそう言った直後に、彼は会社をやめた。やりたいことのために転職したのだった。やりたいことがある人とない人の違いを思い知らされたのだった。
【3】「この企画書、何社に出したんだ?」
営業の効率を上げるために、汎用的な企画書をつくってプレゼンしていた際に、ある企業の部長から言われた一言。営業は顧客との真剣勝負。自分の甘さを見透かされ、猛反省したのだった。
【4】「もうすぐ新人が来る。お前に教えられることがあるのか?」
入社して半年が経った1月下旬、猛烈に忙しい日に上司と先輩に呼び出され、飲みにいくことに。遅れて到着し、乾杯した瞬間にこう言われた。黙って泣いた。
【5】「男の約束は、万年筆で書くんじゃ」
肝いりのアポ、大手を相手に画期的な案件を受注。申込書をもらう際、ボールペンで書くべきところを万年筆で書こうとする先方のキーマン。泣けた。
心に残った一言と言いつつ、辛い話だらけになってしまった。社畜だったんだな。でも、岡本真夜の「TOMORROW」状態で。汗と涙(時に血)を流し成長したんだな。
若い皆さんは、別にこの中年の新人時代はまったく参考にならないだろう。真似しちゃだめだ。ただ、一つだけ。人生は意外に長い。新人時代のどんな辛い体験も、笑い話になってしまうのは不思議なものだ。まあ、いろいろあるけれど、楽しむことをサボらずにいきましょうよ。
『社畜上等!』をよろしくね! 元気出るよ。
【プロフィル】常見陽平(つねみ・ようへい)
千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。
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【常見陽平のビバ!中年】は働き方評論家の常見陽平さんが「中年男性の働き方」をテーマに執筆した連載コラムです。更新は隔週月曜日。