「お聞きしたいのは『あなたが得意なこと』です」
そして現在。
52歳になった彼は転職活動の面接のため、ある会社の会議室にいました。自分よりも10歳以上若い面接役の課長が入ってきて、レジュメを見ながら話し始めました。
課長「小林さんですね。A社を皮切りに、さまざまな会社を渡り歩かれて、華麗な略歴ですね。当社の業務はご存じと思いますが、どのような仕事を希望されますか?」
本人「希望というより、自分の好きなことしかしたくありません」
課長「……わかりました。質問を変えましょう。小林さんの売りは、なんでしょうか?」
本人「そりゃ、いろいろとできますよ。A社では◯◯◯の部署で◯◯◯の仕事をして、B社では◯◯◯の仕事を……」
課長「そこまでで結構です。どんな仕事をしてきたかはレジュメで把握しています。お聞きしたいのは『小林さんが得意なこと』です」
本人「先ほど申し上げた通りです。『自分が好きなことしかしたくない』と」
課長「……それでは、質問を変えましょう。小林さんが好きなのは、どんな仕事ですか?」
本人「……どんな仕事が好きか、ですか……。ええっと……」
課長「……わかりました。結果は後日ご連絡します。今日はお疲れさまでした」
転職を繰り返すこと十数回。前の職場を衝動的に退職し、すでに半年が経過していました。世間は『少子高齢化で人手不足』といわれていますが、彼は書類選考で落とされ続けています。この半年で面接にこぎ着けたのはわずか2回。先ほどのやり取りは、久しぶりに書類選考が通った面接でしたが、結果はNGでした。彼は私にこう言いました。「オレは自分が好きな仕事をしたかっただけなんだけどな。なんでこうなったのだろう?」。