この話が事実とすれば、認知症がどんどん進み、自分の老後資金が底を尽いてしまったとき、助けてくれる家族がいなければ、「姥捨山」に放り込まれて余生を送ることになってしまう。認知症が進みながらもかすかに残った意識の中で、自尊心はズタズタになり、さらには自分が半生を過ごした愛着のある地域から遠く離れたところで、縁もゆかりもない赤の他人に看取られるのは悲しすぎるのではないか。
「そもそも杉並区がおかしいのは、国の方針からズレている点です。国の方針では、『高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進』となっています。国の指針は、杉並と南伊豆のように県境を2つも越える連携を想定していない」(前出・堀部議員)
杉並区の暴走が、国の指針からも明らかになっている。
「南伊豆の健康学園を廃止したことで、南伊豆の業者から陳情が杉並区にあったのは事実です。山田宏前区長による健康学園廃止方針の決定後も、強い陳情があったことで南伊豆の事業は残置された。当初、静岡県も南伊豆特養について反対の立場でしたが、杉並区が多額の負担をすることや南伊豆が受け入れに積極的なことから事業が進むことになったのです」(区役所関係者)
今、全国の特養が待機者を抱える一方、稼働率は96%と100%を切る。都内でもベッドに空きがあっても入所者を受け入れられない現実がある。これはなぜなのか。都内の訪問介護事業経営者は、その理由をこう解説する。
「人手不足が原因です。特に夜間のシフトを埋めることが困難で、特養の一部は法的に必要な介護従事者を集められていない。杉並は南伊豆に特養をつくる前にすべきことがありそうですね」