ところで、ツェルマットにはヨーロッパで最高所に架けられたロープウェイ「マッターホルン・グレッシャー・パラダイス」がある。すぐ目の前にマッターホルンの南壁(イタリア側)を眺められる標高3883メートルの展望台からは、大自然の凄味を感じる美しくも厳しい絶景が一望できて、一度は訪れる価値がある。
鉄道には関係ないじゃないかって? まぁ、そう言わずに聞いてほしい。翌日乗った「グレッシャー・エクスプレス(氷河特急)」の乗務員によると、世界に先駆けた技術を誇る彼らは、鉄道を愛するあまり、かつてなんとここまでアプト式ラックレールを敷き、鉄道を走らせる計画をしていたそうだ。
万年雪と氷河と断崖絶壁に鉄道。無理。あの光景を眺めた後では、どう考えても無理。まったくスイス人ってば、どんだけ鉄道を敷きたがるんだ。
しかし氷河を走り、急坂を上り下りする列車か。ちょっと乗ってみたかった気もする。
■取材協力:スイス政府観光局/スイス インターナショナル エアラインズ/スイストラベルシステム
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら