しかし実は、小松さんは70歳の誕生日の直前に、自宅で転倒して右肩を骨折しているのだ。右腕全体が真っ青に内出血して病院に行くことを勧めたが、本人は頑として「亜脱臼」で通し、エックス線検査を拒否。1カ月黙って痛みをこらえ、そのまま固めてしまった。
「たばこも吸えるし、尻も拭けるから問題ない」と言っていたが、原稿は書けなくなってしまった。そんな身体になっても好奇心は衰えず、弱音や愚痴を漏らすことなく、冗談を言って人を笑わせ、出かけていたのだから驚く。
無人探査機「ボイジャー1号」が昨年の8月頃に太陽系圏から離脱していたことを今年9月にNASAが発表したが、小松さんは宇宙の彼方(かなた)でボイジャーと一緒に「宇宙にさわる」喜びを共有し、交信し合っていることだろう。(乙部順子)
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【プロフィル】乙部順子
おとべ・じゅんこ 昭和25(1950)年、東京生まれ。成城大学経済学部卒業。52年から小松左京さんの東京でのアシスタントを務める。20年前に小松さんの設立した会社「イオ」を継承。また「小松左京マガジン」(季刊)を10年以上発行し続けてきた。