2013.6.16 12:44
兵庫県姫路市生まれ。同志社大学卒業後に派遣社員やアルバイトで暮らした20代の記憶と、高校時代の2年間の米国留学体験が作品の底に流れる。「米国は、人種にしてもジェンダー(性差)にしても多様性を感じさせてくれた場所。複雑さや多様性を失った社会はどんどん先細る…そんな考えがいつもベースにある」
松田さんと同じく三島賞候補となり、惜しくも次点となった小山田(おやまだ)浩子さん(29)の『工場』(新潮社)の表題作も、職場を丹念に描く。敷地内をバスが走る巨大な工場で働く従業員個々の仕事はこと細かく描かれるのに、全体として何をつくる工場なのかは一向に分からない。仕事が極度に細分化された社会で働く不条理が、改行の少ない独特な文章でつづられる。
「『歯車』としてすら機能しているか心もとない。職場で感じた自分の不安が出た作品」と小山田さん。広島大学卒業後、編集プロダクションや眼鏡店など複数の職場を転々とした。そのうち派遣社員として1年弱働いた地元の自動車工場での体験が下敷きになっている。「外から見たら変だなと感じるはずの職場のコードに、何日もすると自分も同化してしまう。それは、おもしろくもあり恐怖でもある」