どんどん「無理ゲー化」する管理職の仕事 部下に求められる能力
≪マネジメントの難易度が上がっている中で、上司の仕事が「スペランカー化(ムリゲー化)」している。部下は、このような「スペランカー上司」を支えなくてはならない時代となっているのだ。[常見陽平,ITmedia]≫
現代社会における上司の仕事は「ムリゲー化」している
突然だが、皆さんは『スペランカー』というゲームをご存じだろうか。アラフォー男子ならご存じの方も多いことだろう。そう、伝説の洞窟探検アクション・アドベンチャーゲームだ。日本では1985年にファミコン版がリリースされた。もともと海外のゲームで、日本版はアイレムソフトウェアエンジニアリングという会社から出ていた。
なぜ、このソフトが有名なのか? それは、難易度が異常に高かったからだ。洞窟の中で少しでも高くジャンプしてしまうと、ミスになってしまう。当時、大ヒットしていた『スーパーマリオブラザーズ』なら画面の上から下まで飛び降りても平気だったのだが。人生の厳しさは、このスペランカーから学んだ。
「それって、有名なクソゲー?」と言う輩もいるだろう。失礼な! 正確には「ムリゲー」に近い。しかも、同年発売のスーパーマリオの裏に隠れてしまったが、ちゃんと数十万本のヒットになっている。だからこそ、アラフォー男子はスペランカーと聞くと妙に反応してしまうのである。
この、スペランカーで遊んでいた世代の男子たちが、企業では課長や部長になり始めている。しかし、求められる成果のレベルが上がっているし、雇用形態や勤務条件が多様な部下をマネジメントしなくてはならなくなっている。また以前のように、男性を中心とした職場ではなくなった。
雇用形も年齢層も、男女比も変化した職場をマネジメントするには、高度なスキルが必要となる。しかも、時代は「働き方改革」の大合唱だ。長時間労働の是正が叫ばれている。育児・介護との両立や、自分の時間を増やすためという理由も含め、より効率的に働くことが期待されている。人材マネジメントだけでなく、そもそも自社を取り巻く課題が変化しているのだから、マネジメントの難易度は上がっているのだ。
そう、現代社会においては管理職の仕事が「無理ゲー化」、言うなれば「スペランカー化」しているのである。このような「スペランカー上司」を支えなくてはならない時代となっている。
「上司のマネジメント」が大切な時代
よく「最近の若者は~」という話になるが、職場においては管理職の問題も浮上している。リクルートワークス研究所が発表した、日本企業の人材マネジメント上の現状と課題をまとめた「人材マネジメント白書2015」をもとに確認してみよう。これは、東証1部上場企業176社から回答を得ている。
同調査によると、「認識している課題と特に重要な課題(3つまで)」という質問項目において、「マネジメントスキルの向上」は77.8%で6位である。なお1位は「次世代リーダーの育成」で94.3%だった。マネジメントとリーダーシップは一部重なるものの、異なるものではある。ただ、マネジャー、リーダーの育成が日本企業の課題となっていることは明らかだ。
他にも管理職が直接的・間接的に関わる「ダイバーシティ(女性等)の推進」(2位・92.0%)「メンタルヘルスへの対応」(4位・86.9%)「ワークライフバランスの強化」(5位・77.8%)などの項目も上位にランクインしている。
このように、現代社会の管理職が果たすべき役割が「スペランカー化(ムリゲー化)」しているのだ。こんな時代においては、このような上司を支える力が必要だと言えるだろう。部下であっても「上司のマネジメント」という視点を持つことが期待されるのだ。
「上司のマネジメント」の視点とは何か。上司の視点に立って行動することである。これは、自分を成長させる上でも案外正しい。上司の動きをチェックし、「しんどくなっていないか」を常にチェックしておきたい。「俺、やりますよ」と、先手先手のサポートこそが必要なのだ。
例えばあなたが営業マンで、所属している事業部の新商品を顧客に提案しているとする。一メンバー視点で言うならば、その受注が取れるかどうかしか考えないことだろう。しかし、上司視点ならば、違う。その案件が受注できるかどうかだけでなく、仮に受注し成果が出たならば、顧客の同業他社や、他業界にも展開し、一大市場を作れるのではないかと考える。そのために社内外でセミナーを行う必要がないかとか、営業ツールの整備を考えるようになる。
あるいは、同僚が休みがちになっているとしよう。上司視点ならば、事業部の士気が下がってないか、目標に対する疲弊感が漂ってないかと考える。つまり、点を見るだけでなく、線や面を見て俯瞰して見れるようになるわけだ。
「いや、メンバーのサポートを担うのは上司だろ」と思う人もいるかもしれないが、スペランカー化する社会においては、チームワークが必要なのだ。スペランカーは孤独な戦いだった。しかし、仕事には仲間がいる。上司をスペランカー化させないためにも、上司のマネジメントという視点をもっておこう。
常見陽平のプロフィール:
1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『僕たちはガンダムのジムである』『エヴァンゲリオン化する社会』(ともに日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)『普通に働け』(イースト・プレス)など。
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