学費3000万円「飛び級のススメ」、学生ローン156兆円「豆を食べ1週間」…恐ろし過ぎる“英米大学生事情”
さて、今週ご紹介する“エンターテインメント”は、本コラム初となる教育問題についてでございます。
3月も半ば、春らしくなってきた今日この頃。学生たちは卒業シーズンを迎えるわけですが、厚生労働、文部科学両省の発表によると、今年3月に卒業する予定の大学生の就職内定率は、前年比4・6ポイントアップの85・0%(昨年12月1日時点)で1996年の調査開始以来、過去最高になりました。
6年連続の改善で、景気回復を追い風に“売り手市場”が続いているそうです。日本の大学生にとってはうれしい状況が続いているわけですが、これとは逆に、いま、欧米の大学生は想像を絶する大変な状況に直面しているのです。
というわけで、今週の本コラムでは、そうした、にわかには信じがたい欧米の“大学生事情”についてご紹介いたします。
まずは英国です。見出しを読んで絶句してしまいました。
2月18日付英紙インディペンデント(電子版)。「(授業料をまかなうための)学生ローン(の借入金)が多過ぎて、大学生は“メンタルヘルス(精神面における健康)問題の増大”や“食べ物を買うことができない”ことに苦しんでいる」
英国の大学生の多くがいま、こんな状況に陥っているというのです…。
■借金で苦悩…学生は“メンヘラー”に…
インディペンデント紙が英の金融テクノロジー会社、インテリジェント環境社の調査結果を引用しながら報じているのですが、それによると、授業料をまかなうための学生ローンを借りている学生の約4分の3が、年々増える借入額の増加をストレスに感じ、3分の1以上にあたる39%が、毎週、食料品店で買い物をする余裕がないと答えていたのです。
さらに、4分の1以上の学生は自分が住むアパートなどの家賃を払えないことがあったと認め、5人に3人(58%)は、次回の家賃の支払期限が来るまでにお金を使い果たしているというのです。
この調査結果について、世代間における公平性を促進することを目的に設立された英のシンクタンク「世代間基金」の諮問委員会のメンバー、エステレ・クラーク氏は前述のインディペンデント紙に「借金とメンタルヘルスとの間には、明らかにネガティブな関係が横たわっている。借金を返済できないということは、とりわけストレスフルなことである。それが学生ローンの場合、借り手である学生にとっての借入金は非常に高額なため、無益なプレッシャーを与える。(それによって)学生が食べ物にありつけなかったり、孤独を耐え忍んだり、食べ物も買えず外出もできず、部屋に閉じ籠もるような状況になるとは考えたくない」と憤慨。
さらに、国の学生ローンの債務を政府が民間企業に売却することになれば、状況がさらに悪化(理由は後ほどご説明します)し「学生のメンタルヘルスに重大な悪影響を及ぼすだろう」と訴えました。
英学生連合(NUS)のシェリー・アスキス部長も前述のインディペンデント紙に「学生たちは、年々増加する巨額の借金を抱え続けている。NUSは、こうした状況が労働者階級家庭の学生の大学受験状況に与える影響について懸念している」と苦悩のコメントを寄せました。
■英国かつて授業料は無料だったのに…しかも6年で3倍に
英国の大学の授業料はかつては無料でした。国がすべて賄っていたのです。しかし国家財政の逼迫(ひっぱく)で1998年には年間1000ポンド(約14万円)に。これが2006年に3000ポンド(約42万円)に。そして2012年にはいきなり3倍増の9000ポンド(約126万円)になりました。英国の大学は3年で卒業になるので、日本円にして計約380万円が必要になります。
学生たちはこれを国の学生ローン(もちろん金利が付きますよ)で返済するわけですが、現在、こうした政府の学生ローンの総貸出残高は710億ポンド。日本円にして何と約9兆8800億円にものぼります。
マンチェスター・メトロポリタン大学で栄養学を学ぶ女子学生フィオナラ・アレンさん(2年生)は前述のインディペンデント紙に「(授業の合間に)月30時間ほど働いていますが、稼いだお金の殆どは家賃、食費、光熱費に消えてしまいます。授業中や勉強している時にもお金のことを考えねばならないのは本当にストレスフルです。私とルームメートは1週間、米と豆だけで過ごすこともあります」と話しました。
おまけに、こうした大学生たちの状況はさらに悪化するとみられています。大きな理由のひとつは英で進むインフレと賃金ダウンです。
2月15日付のインディペンデント紙によると、英の物価は今年1月、約2年半ぶりの高水準となり、ある財団の調査によると、適切な生活水準を保てない人々がここ6年で400万人から1900万人に急増。一方、2008年以来、平均的な物価は3割アップしたにも関わらず、平均所得が上がった人々は全体の約半数しかおらず、多くの世帯がギリギリの生活を強いられていると言います。
さらに、こうした高額の授業料や生活費の高騰、そしてEU(欧州連合)からの離脱後の経済不安要因から、英の大学への入学を希望するEU圏内の高校生が減少していることです。昨年度の出願総数は前年度比5%減の46万9490人でしたが、EU圏内からの出願総数は7%減。ここ10年で初めて減少に転じたのでした(2月2日付インディペンデント紙)。
何だか大変過ぎることになっているのですが、こうした“四面楚歌(そか)”的苦境のため、英では、国の学生ローンの債務の焦げ付きが社会問題化しており、将来、これらを税金で処理することになれば国民(納税者)から大きな反発がでることが予想されます。大学生はますます、肩身の狭い思いをするというわけです…。
原稿を書いていて、陰鬱(いんうつ)な気分になりそうなのですが、米国の大学生もいま、別の意味で大変なことになっています。
2月17日付の米紙ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)が報じているのですが、米の有名私大のひとつ、ニューヨーク大学が、授業料などで年間計6万6000ドル(約740万円)、4年間で計約3000万円(家が建つぞ)という高額過ぎる学費負担を少しでも軽減できるよう、この日、学生が4年以内、つまり飛び級で卒業できやすくする措置を発表したのです。
具体的には、ひとつの授業で2単位もらえる授業を増やすほか、夏休みの間に地元のコミュニティー・カレッジなどの授業に出れば、最大8単位がもらえるといったユニークなもので、こうした措置をフル活用すれば、3年で卒業可能になるといいます。
ちなみに米の大学は学費がバカ高い上、簡単に単位をくれないので、多くの大学生は6年かかって卒業します。なのでニューヨーク大学の場合だと、計約4400万円かかります(アホなのか?)。しかし、大学側のこうした措置と学生のやる気で、約半分の3年で卒業できる可能性が高まるとなれば、死ぬ気で勉強する学生にとっては朗報です。
そしてニューヨーク大学の場合、実は“必死こいて単位を早く取れば早く卒業できて学費が浮かせる”ことに気付いた学生が増えていたことに大学側が気付き、今回の措置となったらしいのです。同大学の運営委員会の責任者であるエレン・ショール氏は前述のニューヨーク・タイムズ紙に、既に全体の20%の学生は前倒しで卒業していると明かしています。
以前の本コラムでもちょこっと触れましたが、米の大学の学費は英どころではありません。例えば、公立である州立大学の場合でも、大体、学費など諸経費含め、年間3万ドル(約340万円)~5万ドル(約560万円)くらいは必要です(ただし州民だともっと安い)。ちなみに私立だともっと高く、例えば、映画学部が世界的に有名な南カリフォルニア大学(USC)だと年間約7万ドル(約800万円)かかります。
そして米でも多くの大学生が国の学生ローンを借り、卒業後、こつこつ返済していくわけですが、専門サイトによると、今年の2月時点で、その総額は何と1兆3000億ドル(約145兆6400億円)。借り手は計約4400万人で、昨年の卒業生の学生ローンの債務残高は、1人平均3万7172ドル(約416万円)。前年より6%も増えていました。
“学費は値下げできないが、やる気のある奴は早めに卒業できるようサポートしまっせ!”というこのニューヨーク大学のやり方、実力社会のアメリカンらしい発想ですね。そしてこの措置、米の他大学にも広がりそうな気配といいます。
日本の大学生の中にも、卒業後の奨学金返済問題などで苦慮する人々が少なくないようですが、将来、英や米のような状況にならないことを祈るばかりです。(岡田敏一)
【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当を経て大阪文化部編集委員。ロック音楽とハリウッド映画の専門家。京都市在住。
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