炎上必至の面接質問、今年聞いたらいよいよヤバイ 電通問題で就活生の意識一変か

提供:PRESIDENT Online

あえて「残業や休日出勤ができるか?」と聞く理由

 「残業や休日出勤ができるか?」

 採用面接で学生にこう聞いている企業が36.6%に上ることが労働組合の連合の調査でわかった。また「転勤ができるか?」を聞いている企業も43.9%もあった。

 勤務時間限定や勤務地限定の社員ならともかく、正社員でしかも総合職の採用であれば、仕事の繁閑によって残業や休日出勤が発生する当たり前である。

 法律上も労使で取り決めた時間外労働時間の上限(36協定)の範囲内で、かつ残業代を支払えば業務命令で働かせることができる。もちろん転勤も日本では企業の裁量に任されている。

 だから多くの企業は“残業・転勤含み”での採用が前提なので「残業や休日出勤、転勤ができるか?」と聞くことはあまりしない。

 では、あえて聞く企業の意図はどこにあるのか。

 調査した連合は「残業しにくい人が多い女性を採用しないことにつながる」点を懸念しているが、そればかりではないだろう。

なぜIT企業は残業や休日出勤にこだわるのか?

 ひとつは残業なくしてはビジネスが成り立ちにくい企業側の事情にあるかもしれない。

 24時間フル稼働の運輸業や発注先での常駐勤務もあるIT・ソフトウェア業界だけではなく、取引先・顧客に対応する営業や販売主体の業種では定時に帰ること自体が難しい。残業が多いことを理由に短期間に辞められては困るという“予防措置”もあるだろう。

 もうひとつはこうした業種も含めて、残業が常態化し、場合によっては長時間残業が蔓延している企業かもしれない。その背景には人手不足もあって業務量が異常に多いという事情もあるだろう。

 いずれにしても「残業はできますか?」と聞いて「はい、できます」との答えを得る(できませんと言う人はほとんどいないだろう)ことで、長時間残業で音を上げても「きみはできると言ったよね」という“証拠”にしたいに違いない。

 だが、今年の就活戦線では企業の「残業できますか?」という質問は墓穴を掘ることになりかねない。

 なぜなら、今年の就活学生の最大の関心事は企業の「働き方改革」の取り組み、とりわけ長時間労働にあるからだ。学生は新聞、テレビ、Webのニュースに非常に敏感であり、就職先選びにも大きな影響を与えやすい。

「定時に帰れますか?」「有休の取得率は?」

 とはいえ、その傾向は何も今始まったわけではない。

 たとえば2006年にライブドアの元社長の堀江貴文氏が逮捕されたとき、マスコミが盛んに報道した影響でWebなどIT系企業が悪者扱いされ、IT業界を志望する学生が激減したこともあった。

 また、2014年は政府が女性管理職登用など女性活躍推進を呼びかけたこともあり、仕事と生活の両立支援を打ち出す企業に女子学生だけではなく、男子学生の応募も増加した。

 当時の採用面接で男子学生から「御社の育児休業期間はどれくらいですか?」と聞かれて驚いた人事担当者もいた。おそらく両立支援策が充実している会社ほど「社員にやさしい企業」だと考えたのではないか。

 そして今年は少し前にしばしば取りざたされたブラック企業と併せて、電通の長時間労働問題が連日のように大きく報道されたこともあり、働き方に対する関心が高まっている。

 すでに大学での説明会に参加した食品会社の人事担当者はこう語る。

 「会社の事業内容や仕事のやりがいなどについて話しても、学生からは『定時に帰れますか?』『残業時間はどれくらいですか?』『社員の有給休暇の取得率はどのくらいですか?』という質問が圧倒的に多かった。明らかに去年とは風向きが変わっている」

「労基署の是正勧告を受けたことありますか?」

 確かに、過労自殺した電通の女性社員は入社後半年余りだっただけに学生にショックを与えた可能性もある。

 1995~96年生まれの学生の中には、第1次電通自殺事件を知らない者も多く、有名な大企業でもそんなことが起きるのかと志望企業の労働時間や残業時間に敏感になっても不思議ではない。

 実際に新卒ダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」を運営するi-plugが就活生に実施した「働き方」関する意識調査(2017年1月12日~18日)にも現れている。

 学生が最も気にしているポイントとして「長時間労働やサービス残業があるか」(59.9%)、「ブラック企業かどうか」(56.5%)、「有休休暇が取得しやすいか」(46.2%)が上位を占めている(複数回答)。

 自由回答ではこんな声が挙っている。

 「仕事は賃金を得るための手段と考えたい。自分のプライベートや家族など、その他の生活を犠牲にして働くことは避けたい」

 「近年、ブラック企業がマスメディアに取り上げられることが増え、自分自身の意識が根本的に変わった」

 「生きるために仕事をしているのに死んでしまったら本末転倒」

 こうした状況下で例年のように「残業や休日出勤ができますか?」と聞こうものなら、逆にこう質問攻めにされかねないだろう。

 「1カ月の平均残業時間はどのくらいですか?」

 「労働基準監督署の臨検や是正勧告を受けたことがありますか?」

 だが、実際は冒頭で報告したように、3分の1以上の企業がこの“炎上”必至の質問にトライしているというわけである。

 (溝上憲文=文)