主婦の働き方、多様化進む 在宅ワーク拡大、IT普及や労働力不足が追い風
主婦の働き方の選択肢が今、急速に広がりつつある。インターネットを活用した在宅ワークが拡大しているほか、企業の総合職で経験を積んだ女性に短時間で好待遇な求人も出現している。IT環境の普及に加え、少子高齢化の進行で深刻化する人手不足が「働きたい主婦」への追い風になっている。
最適な在宅ライター
長野県上田市に住む的場りえさん(27)=仮名=は、5歳の娘と3歳の息子のいる主婦だ。以前は不動産会社で営業をしていたが、妊娠を機に仕事をやめた。子育てに専念中、知人に勧められ、WEBライターの仕事を請け負うようになった。
子供に手がかかる今は、フルタイムでバリバリ働くつもりはない。しかし、先々の教育費を考えると、収入があるに越したことはない。パソコンがあれば納品まで完結する在宅ライターの仕事は最適だった。
これまで子育てなどを理由に就業を諦めてきた女性が、収入を得る手段は多様化してきている。
実は的場さんは今秋から、人材サービス会社UZUZ(東京都新宿区)の編集部に所属している。「ライターとしてスキルアップしたい」と、ネット上の求人に応募した。
同社は個人事業主などのフリーランスや兼業ライターを集め、WEBメディアを中心とした仕事の仲介や監修、スキルアップ支援などを行っている。やり取りは全てオンライン上で行えるので、場所や距離の問題はなく、所属ライターや編集者は北海道や欧州にもいる。
ITを活用した働き方は、在宅での仕事を可能にし、主婦の就業機会を広げている。こうした中、WEBエンジニアやWEBデザイナーを育成する民間の講座も盛況だ。
IT人材養成学校を運営するデジタルハリウッド(東京都千代田区)が開講する「主婦ママクラス」は人材派遣会社と提携。人手不足のIT業界へ就業をサポートしている。
一方、高いスキルを持つ離職女性へのニーズも高まっている。人材派遣会社テンプスタッフは今夏、英語や経理などの専門性を持つ女性を対象に、週4日や1日6時間などフルタイム以外の仕事を紹介するビジネスを始めた。
総合職から離・転職した女性を想定し、時給も1700~2000円と高めだ。担当者は「企業側は『即戦力人材なら、短時間勤務でも高給でも欲しい』という状況」と語り、専門性の高い職種を中心に人手不足感が強いことを指摘する。
専門的な知見を求める人や企業に、専門家の「スポットコンサル」をネット上で仲介するビザスク(東京都新宿区)には、育休中やフリーランス女性のアドバイザー登録も少なくない。
1時間当たりの謝礼は平均1万5000円で「バリバリ働いてきた女性が、経験と隙間時間を生かすことが可能」と、採用・人事担当の田中亮執行役員は言う。
働き方の選択肢が広がる背景には、深刻化する働き手不足の問題がある。労働政策研究・研修機構の推計では、経済がゼロ成長で、女性や高齢者の労働市場参入が現状のまま進まなかった場合、2014年で6587万人だった労働力人口は30年には787万人減少する。
これに対して、総務省の労働力調査(15年)では、女性の非労働力人口(無職で求職活動をしていない人の数)2887万人のうち、実は301万人が可能であれば就業したいと考えているという。稼ぐ手段が多様化すれば、子育てなどで離職した「やむなく専業主婦」層が動き出す可能性が高まる。
求人情報サイトを手掛けるエン・ジャパンは、今後も求人倍率上昇を見込み「この2年で女性専用の求人サイトを増設している」という。
変わる“求人の常識”
「子育てが一段落したら年齢の壁で仕事がない」という“求人の常識”も変わりそうだ。女性の就労支援に特化した人材派遣会社ビースタイルは今年、45歳から50代前半の働き手を企業に売り込むセミナーを開いた。三原邦彦社長は50歳前後の人材について「超人手不足時代に唯一、数が増える世代。人手不足解消の鍵となる」と話す。
働き方の変化に人手不足の時代環境が加わり、遠くない将来「専業主婦」は希少職種になるかもしれない。労働力調査によると、女性の生産年齢人口(15~64歳)の就業率は昨年64.6%。15年前と比較すると7ポイント超も上昇している。ただ、多様化には課題も潜んでいる。
東レ経営研究所コンサルタントの渥美由喜氏は「主婦が(仕事と子育てを両立しやすい)職育近接で働く方法が増えているのは事実」としながらも、在宅のライター職などは「低賃金の仕事も多く、企業が非正規労働者の主婦に依存してコストを抑えている面もある」とも指摘する。その上で「働く意欲をもつ主婦が(主婦業と仕事と)ダブルワーカーになるには、雇用流動化や賃金適正化など、国による環境整備が必要」と提唱している。
来年度の税制改正をめぐり、配偶者控除は、対象となる働く主婦らの給与収入の上限を年間「103万円以下」から「150万円以下」に引き上げることで政府内は決着した。議論の過程で控除廃止が浮上したことを踏まえれば尻すぼみの感はぬぐえないが、女性の就労環境は変化している。就労活性化に向け、さらなる政策的な後押しが期待される。(滝川麻衣子)
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