“学び直し”で再就職後押し 大学や企業、女性支援プログラム設置
出産や子育てでやむなく離職した女性に再就職への願望は強い。半面、ブランクを経て本格的に社会復帰するにはスキルなどに高い壁が立ちはだかってくる。こうした状況を反映し、大学や企業に“学び直し”で新天地でのキャリアに挑む女性を後押しする動きが広がっている。
日本女子大学(東京都文京区)は今年4月、就業経験を持つ4大卒女性(年齢不問)が対象の再就職支援プログラム「リカレント教育課程」をリニューアルした。文部科学省が創設した「職業実践力育成プログラム」に認定されるとともに、厚生労働省から「専門実践教育訓練講座」の指定を受け、6カ月(年2回募集)の履修期間を1年に延長。社会人の職業能力向上に取り組む大学や個人を支援・助成する政府の制度にも沿って新たなスタートを切った。
高い就職実績
2007年創設のこの教育課程は大学における女性の再就職教育の先駆け的存在だ。ビジネスで即戦力となる英語、ITリテラシーを必修に、企業会計、金融、内部監査などより実践的な科目を選択できる。創設から今年4月までの累計入学者455人の平均年齢(受講時点)は38.9歳。7割近くが既婚者で、出身大学・大学院は日本女子大以外が7割を超える。
特筆されるのは就職実績の高さで、昨年度は就職希望の修了生全員が就職できた。独自に合同会社説明会を開催し、求人サイトも設けるなどきめ細かな対応が実を結んでいる。
この教育課程には企業も一役買っている。総合スーパー大手の西友は、受講生が実際に同社の業務を体験する「セルフリーダーシップ・プログラム」を提供している。今年は8月30日~9月7日のうち6日間、選抜された20人が同社に勤務する女性の働き方に触れ、最終日には4組に分かれ、現場の課題解決策を経営幹部に提案した。
西友は女性従業員比率が高く、利用者も女性が圧倒的に多く、社内外での多面的な女性支援が継続的な事業発展につながるとして14年から毎年プログラムを実施しており、今年度から単位取得できる正規科目となった。リカレント教育課程所長の坂本清恵文学部教授は「教育の場でも再就職に向けたインターンシップ(就業体験)が求められており、グループワークでインターンを経験できる良い機会」と評価する。
この教育課程には、日本女子大の創設発起人でNHKの連続テレビ小説「あさが来た」の主人公のモデルとなった広岡浅子が創業した大同生命保険の寄付講座もあり、企業との連携を強めている。
実践力育てる
再就職を目指す女性の学び直しの受け皿となる大学はこれにとどまらない。関西学院大学(兵庫県西宮市)は08年に経営戦略研究科に女性再就職支援の「ハッピーキャリアプログラム」を設け、15年には女性リーダーシップ育成コースを新設した。明治大学(東京都千代田区)も同年、「女性のためのスマートキャリアプログラム」を開設している。いずれも職業実践力育成プログラムに認定され、講師陣には多くの企業人をそろえるなどより実務的な教育に力を入れる。
女性が再就職を目指す事情はさまざまだ。日本女子大でリカレント教育課程を受講する40代の大和田のぞみさん(仮名)の場合、10月に年金や健康保険の社会保険料がかかる収入基準が130万円以上から106万円以上に引き下げられた、いわゆる「106万円の壁」が応募のきっかけだった。大卒後に設計職で採用されながら、夫の海外赴任に伴い入社2年目で退社し、5年前から今年春まで非正規で働いてきた。「1年契約で、昇給もない。このニュースを知り、むしろしっかり働いて自分のキャリアにつながる仕事を正社員でできれば」と応募を決めた。2万円の入学金と年間24万円の受講料は失業保険でまかなえているという。
高いキャリアを持ちながら離職した女性がスキルアップで新たにキャリア形成を目指す動きは一段と広がっている半面、日本の学び直しの支援策は欧米に比べて手薄とされ、さらなる政策の拡充が求められている。(鈴木伸男)
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