大企業でも「副業」が当り前の時代? 安定神話が崩壊、スキル磨いてリスク分散

 
副業支援企業「AirSol」代表でエールフランスCAの片山裕子さん=産経新聞大阪本社(恵守乾撮影)

 勤務する会社以外に、空き時間を使って他社などで「副業」するケースが増えている。金融危機や国際競争の激化などにより、名の知れた大企業に勤めていても将来に不安を抱く人は多いようだ。そうした背景から、組織に頼らずにキャリアを磨いて生活力をつけたいという人の副業を支援するサービスが人気を集める一方、社員に副業を認める大手企業も登場した。(栗井裕美子)

 ユニークな副業

 外資系航空会社の日本人客室乗務員約150人が、顧客企業の業務を代行します-。

 フランスの航空会社に客室乗務員として働く片山裕子さん(35)が、副業として昨年10月に設立した「AirSol(エアソル)」(東京都千代田区)の事業内容をアピールしたユニークなキャッチコピーだ。

 通訳や製品PRなど企業からのアウトソーシング(外部業務委託)の依頼をエアソルが取りまとめて、登録している外資系航空会社に勤務する客室乗務員たちに割り振る。片山さんも登録者も勤務先から副業が認められている。

 片山さんが起業したきっかけは、客室乗務員は市場調査など個人的な依頼を受けることが多く、一人でこなせない案件もあったことだった。このため、依頼を受ける窓口を一本化させて効率化させようと考えたわけである。

 現在、大阪に本社を置く伊藤忠食品や東京の大手広告代理店などと取引しており、通訳や製品PRなど幅広い業務を請け負っているという。また海外出張の代行は、自社の社員を派遣するよりもコストが安いケースもあり、「中小企業の海外進出の力になれる」(片山さん)と意欲的だ。

 1週間で世界5都市を移動することもあるという多忙なスケジュールだが、片山さんは「多くの人の役に立っていると思うと楽しい。客室乗務員は体力的に大変で閉塞(へいそく)感を感じている人もいるが、日常とは異なる業務に携わることで新たな可能性を発見したり、本業のプロ意識を高めるきっかけとなればうれしい」と話す。

 ネットが手軽

 海外の企業では以前から従業員の副業を広く認めてきた歴史もある。しかし、日本では禁止する企業も多く、副業はあまり一般的ではなかった。

 だがインターネットの普及によって、空き時間を有効に利用して手軽に副業ができるようになった。

 ネット上では副業を支援するサービスが次々と登場。現在は、業務の受発注を行うクラウドソーシングや、ブログなどにリンク先に誘導する広告を掲載して収入をえるアフィリエイト、ネットショッピングの一種、ドロップ・シッピングなどがある。

 ネットビジネスを調査するフリーキャリア総研(東京都新宿区)の調べでは、昨年5月末時点でネットを利用して収益を得ている個人はのべ860万人。リーマン・ショックや消費増税など、経済情勢が大きく変わった際に副業を始めるケースが急増する傾向にあるという。

 今年6月に発表した調査では、ネットで回答した722人のうち73%が、企業が副業を認める動きが広がっていることについて「賛成」と回答している。

 同総研を運営するドロップ・シッピング支援会社「もしも」(東京都新宿区)の広報担当、小野彩子さんは「勤め先の企業の経営が傾いた際などに備えたリスク分散や、金銭的な理由などで副業を支持している人が多い」と指摘する。

 企業の成長につながる

 大手企業の間でも社員の副業を認める動きが広まっている。

 大手製薬会社、ロート製薬は今年2月、社員に副業(兼業)を認める制度「社外チャレンジワーク」を設けた。応募の結果、約60人の社員に副業を認め、勤務時間外にドラッグストアで薬剤師として働いたり、地ビール製造の会社を起業したりしているという。

 ロートは農業や再生医療など事業の多角化を進めており、外部で副業をすることで得た経験や人脈を社内で活用してもらう狙いもある。

 今のところ、副業している社員の周囲から「本業に支障が出ている」などの苦情は寄せられていないといい、同社広報は「社員の成長は会社の成長につながる」と期待を寄せる。

 かつて定年まで勤め上げる社員を「企業戦士」などと呼び美徳としてきたが、近年は多様な人材を生かすダイバーシティ経営の必要性も求められている。組織にとらわれない自立した社員が増えることを企業側がどうとらえるか。動向が注目される。